031 星暦550年 藤の月 8日 進行状況
大は小を兼ねるというが、実は小の方が大よりいい場合もあることを知った。
ちょっと、世の中を間違った思い込みでやってきたかも。
細く伸ばした銅線を使って安物ランプの術回路を出来るだけ小さく複製して3つ繋いでみた。
面白いことに、小さくしても明るさはあまり変わらないが、魔力の消耗は減る。
何故だろう?
術回路そのものも魔力を消耗するのだろうか?
だとしたら、出来るだけ小さい術回路を作ってそれを何個も繋ぐのが、効率的になる。
例え暗いめでも、簡単に縮小して繋ぐことの出来る単純な術回路の方がよさそうだな。
いつか術回路の単純化の実験をしてみよう。
とりあえず、今回は安物ランプのより単純な術回路をひたすら小さくして繋ぐ。
銅線を薄くするのにちょっと時間を無駄にしたが、術を使って細く伸ばすのに成功したから問題は無いはず。
見てろ。
誰のよりも小さく、効率的な術回路を作って見せる!
これからは俺のスキルが十分に生かせるはず。
「面白~い」
シャルロのぽわ~んとした声が隣からしてきた。
横を見ると、いくつもの小さなガラス玉が光っている。
何を使ったのか、モノによっては青かったり赤かったりしている。
きらきら光が乱反射しているのもあれば、点滅するような光り方しているのもあった。
「凄いな。一体どんなものを試してみたんだ?」
乱反射しているガラス玉を持ち上げて光を覗いてみる。
「え~とねぇ、砂でしょ、塩に胡椒に卵。花弁とか油とか銅も。髪の毛を溶かし込んだりもしてみたんだぁ」
砂とか塩というのはそれなりに想像もつくが、花弁とか胡椒とか卵?
髪の毛を溶かし込むと言うのもちょっと微妙だ。
「この乱反射しているのは?」
「それは卵の殻とか。こっちのピンクのが胡椒だったの。
意外と入れたものと結果の色が想像と一致しないんだよねぇ」
ガラスに胡椒を混ぜて光の魔術をかけると、ピンクになるのか?!
・・・不思議だ。
この分だったら思いがけない材料を色々試してくれそうだから、面白いモノが出来あがりそうだ。
「アレクの方はどんな感じ?」
「う~ん、色々形は試してみたが、素材をどれにするかでどの形が一番いいかも影響を受けそうだ」
バラの花の様な形やループ、三角錐、立方体など色々な形がアレクの前に転がっている。
微妙のちょっと違うバリエーションを出して色々試しているようだ。
なんか、そこそこ芸術的なランプが出来そうな雰囲気だ。
俺は単に明るくかつ出力を小さくという面にだけ拘っていたからなぁ。
人目につかない術回路が担当で良かった。
・・・芸術性って教師からの採点にも考慮されるのかね?
「ウィルの方は?」
先ほど作った小さな術回路を3つ繋げたものに魔力を通して見せる。
「小さくすると明るさが殆ど変わらないのに魔力の消費が下がるみたいだ。
しかも、小さいのを幾つか繋げるとオリジナルの安物ランプずっとより明るいのに消費魔力は少なめという結果になりそう」
「ほえぇぇ」
俺の手元にある現在制作中の親指サイズの術回路を視て、2人が納得したように頷いた。
「いい感じじゃん。小さくしたら魔力消費が変わると言うのは考えていなかったな」
「えへへん」
思わず勝手に照れる。
「とりあえず、あと1刻位はかけてこの小さな術回路を幾つか作りたい。そちらももう少し研究して、1刻後に出来たモノの中から素材と形を決めようか」
俺の提案に二人が頷く。
うっしゃ。
いいものが出来そうだ。
それこそ、特許を取って金儲けに使えないかな?