309 星暦553年 緑の月 5日 でっち上げの容疑(9)
ちょっと癌のような症状の話が出てきます。完全に想像に基づいて無責任に書いてありますので、不愉快に感じられましたら申し訳ございません。
「研究論文・・・か?」
幾つかの丁寧に纏められた論文が仕舞われていた。
医療のことなぞあまり詳しくないのだが、どれも同じ病気に関しての研究結果のようだった。
公爵に対して研究支援の礼を述べている表書きが添付された物もあったから、少なくとも1つはファルータ公爵が資金提供して行わせた研究のようだ。
どの論文も体に凝りが出来てそれが大きくなっていく症状に関しの研究結果が書かれている。
様々な薬を試した実験結果や凝りを切り出す試みのことも書いてあるが・・・。
何でこんな物が態々ナルダン工房の家具に隠されているんだ?
公爵クラスの有力貴族ともなれば、それなりに慈善行為や後世への投資として研究や起業に資金提供をするのはある意味社会的義務とも言える。
偶々興味があった病気や症状に関して研究をさせたところで誰も文句は言わないだろう。
その研究結果を態々隠しているというのは・・・。
公爵本人に関係するのか?
若しくは子供とか?
だが、自分の子か疑っているファルータ子爵の為に態々研究をさせるかね?
下の子供はまだ幼いはずだが、幼い子供に関する研究論文は見当たらないから下の子供に関する話ではないだろう。
先ほどの手紙と表書きがついていた研究論文を転記の術で写し、そっと公爵の寝室のベランダへ移動した。
病気に関しては詳しくないが、捻挫して熱を発している部位や潰瘍などは注意深く探せば心眼で『異常がある場所』としてある程度は見つけることが出来る。
ファルータ公爵が病気なのか、その病気と学院長を嵌めることがどう関係あるのか、イマイチ不明だが・・・情報があるに越したことはないだろう。
◆◆◆◆
「はぁぁ?
私がガルカ王国に通じている??
そんな訳ないだろうが」
失礼だろうとは思ったものの、学院長に頼み込んで嘘発見を使わせてもらって、今回の依頼について話した。
学院長が他国に通じている事はないと信じているが、考えようによっては、裏切り者は周りから信用されているからこそ価値がある。
100万に1の可能性かもしれないが、学院長が家族や誰か大切な人の身柄か何かを元に脅されている可能性だって絶対にないとは言い切れないからな。後で不安になるよりも、最初に聞いちまった方がすっきりする。
そして、当然のごとく学院長は白だった。
「盗賊ギルドに軍の情報部から依頼が入ったのですよ。
学院長がガルカ王国に通じているという証言が寄せられたので、証拠を入手しろとね。
アファル王国の忠実なる一員としては、軍部からの依頼を理由も無く断るわけには行かないですからね。
取り敢えず色々条件を付けて黒幕まで辿ったところ、ファルータ公爵にたどり着きました」
懐から公爵邸で作った写しを取り出して学院長に渡す。
「こんなものを隠し持っていましたが・・・。
例え、公爵が病気だとしても学院長を嵌める理由っていうのが俺的には不明なんですが、学院長は分かります?」
公爵の体を隅から隅まで視てみたところ、左の太股に確かに何か凝りのような物が出来ていた。
だが。
腹や頭に何か出来たというのならまだしも、太股だったら切り取ってしまえば良いんじゃないのか?
病気というのは魔術はごく簡単なレベルでしか役に立たない(熱を少し下げるとか、化膿しにくくするといった程度)が、止血ならばかなり強力に効く術も幾つかある。
だから事故などで足が潰されても足を切断して生き残れるのだ。
つまり、足に都合の悪い凝りが出来たのだったら、足を切除することだって可能だ。
それじゃあ駄目なのかね??
俺から受け取った手紙の写しに目を通して、学院長が顔をしかめた。
「まったく・・・。
何がちゃんと諦めただ。こんな手紙を書くなんて未練がましい」
「しかし・・・病気?
ああ、こちらの報告か」
ため息をつきながら学院長は研究論文の写しを手に取り、目を通し始めた。
「確かに左脚の太股付近に何やら凝りが出来ているようでしたが、足だったら切断すれば良いように思えますし、例え何らかの理由があって助からないと絶望したにしたとしても、それと学院長を嵌めることにどう関係があるんですかね?」
ため息をつきながら、学院長がこめかみを揉んだ。
「分からんな。
第一、証拠なんぞ探させたって出てこないのだし。
どうせ変な依頼を出すなら、無い物を探すよう依頼するよりも、証拠をでっち上げておいてそれを私の部屋に隠すよう依頼する方が意味があるだろうに」
確かにな。
・・・もしかして、それは既に公爵の手の者でやってあるのか??
「学院長。
まず、学院長の家と、学院の学院長室と教務室を徹底的に確認しましょう」
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