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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後2年目
302/1294

302 星暦553年 緑の月 5日 でっち上げの容疑(2)

「金がいいのか?

依頼主との条件交渉の仲介を提案しようかと思っていたのだが?」

長が手に持った白紙をぴらぴらと振って見せた。


ふむ。

依頼を請けるにあたって、こちらが色々と条件を主張するならばそれを紙に書いて依頼主に渡すことも可能だと言いたいのか。


盗賊シーフギルドの人間だったら、どれ程複雑な条件であろうと絶対に暗記して証拠になり得る紙に書き残したりしない・・・が、この場合は紙がある方が依頼主を追いかけやすいので、そこのフォローアップも含めて手伝ってくれるようだ。


思いつく限りに色々と条件を付ければ、依頼を持ってきた下っ端が上司に話しに行く際にその紙を持って行く可能性も高いな。


長の提案から察するに、盗賊シーフギルドに話を持ってきた人間も、ギルドが絶対に証拠になりかねない紙に情報を書き留めたりしないということを知らないようだし。


「では。

まず、探す場所は魔術学院の学院長室と教務室にある金庫、及び学院長の個人宅のそれらしい隠し場所のみ。

両方を調べるのに要する期間を10日とします。

条件に合意して依頼を正式に請けてから10日間かけても見つからなかった場合は、都合良く証拠となる文書なぞ存在しないとみなして違約金なしの依頼未達にする。

その他の場所を調べて欲しいなら、依頼主が指定し、追加捜査場所ごとに3日かけます。

追加場所が漠然として広い場合はもっと日数を要する場合も有り、これを依頼に含めるかは俺に最終決定権があるとする。


最低でも10日はこの仕事に拘束されるので、前金で金貨3枚。これは何も見つからなくても返金無し。

何か証拠になる文書が見つかった場合の成功報酬は金貨50枚。


ただし探し場所が増えた場合はその都度成功報酬の額も再交渉する。


・・・そんな所ですかね?」

俺がつらつらと条件を述べたら、それを紙に書いていた長が顔を上げた。


「調べる内容としては、よくある不倫関係の手紙、裏金や贈収賄の証拠、その他誰が見ても違法だと分かる内容の文書。

一見、違法な内容では無いもののガルカ王国に通じている証拠になるような文書があると想定しているのだったら、探して欲しい内容を依頼主が指定すること。

・・・という条件も足しておいた方がいいんじゃないか?

あと、成功報酬はそれっぽい文書を持ってきたら即金ということで、成功報酬もギルド預かりにしておくか」


良いねぇ。

成功報酬を前払いで全額ギルドに預けておけと主張したら、確実に下っ端レベルでは決定できないだろう。


「それでお願いします。

一応、その紙を確認させて貰えます?」

ニヤニヤ笑いながら長が差し出してきた紙を受け取り、読む振りをしながら魔力を込めた。


術は掛けない。

追跡用の発信マーカーを発見する魔具や術もある。それを使うほど依頼主が用心深いかどうかは知らないが、見つからないに越したことはない。

単に俺の魔力が滲み出て染みついた程度だったら、例えちょっと魔力が多めかつ執拗に紙にへばりついていても、術は掛っていないのだから探知されないはずだ。


「これで良いでしょう。

では、返事を待っています」

紙を長に返す。


「うむ。

では、早速依頼主に連絡を取るよう手配しておこう」


・・・あ、考えてみたらまだ昼ご飯食べてなかった。

シャルロ達に暫く留守にするって連絡を入れる必要もあるし。


「連絡を取るの、一刻ぐらい待っても大丈夫ですよね?

まだ昼ご飯食べてなくって」


ため息をつきながら長が肩を竦めた。

「はいはい。

お前さんが急がないなら一刻待ってもこちらは全然構わん」


◆◆◆◆


長の手の者が条件を書いた紙を持っていった先は、軍部の第3騎士団本部の近くにある酒場だった。


流石に直接軍部の中には連絡を取らないのか。

どうやら酒場のメイドが連絡係らしく、メイドに硬貨を何枚か握らして何やらささやいていたと思ったらメイドが近所の子供にお使いを頼みに出て行った。


なんだ。

メイドが行くんじゃ無いのか。

今なら別に酒場もそれ程忙しいわけじゃあないのに。


暫し待っていたら、ひょろりと背が高い猫背の男が酒場に入ってきて、メイドの方を見たと思ったら、彼女がこっそり指さしたギルドの人間の前に座った。


メイドがビールを男の前に置き、姿を消す。


「どうした」

待っている間にギルドの男が座っている場所の隣にあったテーブルに仕掛けておいた通信機の端末から声が聞こえてくる。


「何分と漠然とした依頼だったからな。

指名された相手が、条件をはっきりと決めなければ請けないと主張してね。

こちらがその詳細だ」


俺の魔力が滲んだ紙がテーブルの上を動くのが視えた。

ちらりと紙に目をやった猫背の男が、かぱっと口を開けて硬直した。

「金貨50枚を前払い?!

そんな無茶な」


あ、ちらっと見ただけで金額に目が行ったんだ。

他の部分の条件もそれなりだと思ったんだけど。


かえって金額的には、特級魔術師相手の依頼だったら金貨50枚なんて全然多くないと思うんだけどねぇ。


「本人に払うわけではない。

単に、ギルドに預けて貰うだけだ。流石に相手が特級魔術師だからな。そのくらいの金額は当然だろう。

ちなみに、他の条件もちゃんと確認してくれよ」

ギルドの男が答える。


「いや、そんなこと言ったって・・・。

俺は詳しいことは知らないんだ、これで十分なのか知らないし、金貨50枚が本当に妥当なのかも分からん」

猫背の男が頭を抱え込んだ。


そりゃそうだろうね。

お前さんがあっさりそこで合意したらこっちが困るよ。


「じゃあ、決定権がある人間にその条件を持っていくんだな。

合意するならギルドに金貨50枚渡してくれればいいだけなんで、その紙は持って行って良いぜ」

親切がましくギルドの男が答えた。

紙を届けさせるよう、長に言われているのかな?

ギルドが依頼に関する書類を外に出すなんて、本来なら絶対にあり得ない(というか何も書き記したりしない)が、今回は相手が大人しく紙を持って行ってくれると大分こちらの追跡が楽になる。


「分かった。

いつまでに返事をすればいいんだ?」


ギルドの男が肩を竦めるのが見える。

「返事がなければ単に仕事に取りかからないだけのことだ。

いくらでも時間を掛けてもこちらは構わんよ」


ビールを飲み干して、猫背の男が席を立った。

「分かった。

また連絡する」


「別に、依頼をキャンセルするなら連絡は要らんぞ」

ギルドの男が答えた。


まあ、キャンセルなんぞないだろうが。

特級魔術師でもある学院長を嵌める為だとしたら、誰が黒幕だとしても金貨50枚なんてさしたる出費ではない。


が、下っ端が決められる金額ではない。


さぁて。

次はどこに繋がるのかな?


久しぶりにちゃんと予約掲載出来た~。

次は30日に更新します。

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