030 星暦550年 藤の月 8日 研究
スリやらピッキングやらで、食べる為に指先を鍛えて来た俺だ。
当然、指先は人並み以上に器用だと思っていた。
が・・・。
考えが、甘かった。
結局くじ引きの結果、俺が術回路、シャルロがガラスの素材、アレクがガラスの形を研究することになった。
ある意味、最適な振り分けだ。
シャルロは感性と閃きが重要そうな素材に向いていそうだし、計画的で周到なアレクはガラスの形を研究するのに向いていそうだ。
俺は分解しなくても色んな回路が視えるし。
くじ引きってずるをしようとしたら幾らでもずるを出来るけど、しないと偶にこういう面白い結果になる。
時々、運命を感じたり。
悪戯好きな神が暇つぶしにこういったくじ引きを弄って遊んでいるんじゃないかなぁ~なんて。
・・・神ってどのくらい暇なんだろ?
能力がそれなりに超絶していて一瞬で何万もの作業をできるとしたら、久遠の時っていうのはたまらなく暇な時間なのかもしれない。
いつの日か、どこかの神殿長と個人的に仲良くなれたら聞いてみたいもんだ。
それはともかく。
まずは各々適当に試してみてから相談しようと言うことになった。
術回路かぁ。
考えてみたら、今まで術の形なんてあまり考えていなかったからなぁ。
まずは自分が術を行う時にどんな感じに力が発散するのか見てみるか。
「イルム」
光を出してみる。
・・・。
自分で光を出す時ってイマイチ術がどう発動しているのか、視えにくいことが判明。
自分のエネルギーが邪魔だ。
シャルロに術をやってもらおうかと思ったが、ふと周りを見回したらクラスの他の連中も術を研究しようとあちこちで光の術を唱えている。
あれでいいじゃん。
光の魔術が具現化する時の魔術の流れをできるだけ2次元的に見るよう、眼を凝らす。
改めて、何人もの人間が似たり寄ったりな光の魔術を行使しているのを視ていると、魔術って不思議だと思う。
誰一人として、同じ形に魔力を流していない。
なのに、同じような感じに具現化している。
術の具現化は何故こうも融通が効くんだろう?
もしかしたら、光と言うのは最も基本的なエネルギーの形であり、ある程度以上の魔力と方向性があれば勝手に発生するものなのかな?
だとしたら、何がこの発現をより小さな魔力でより明るくさせるのか。
隣のグループの奴が連発していた術の形に出来るだけ近いと思える術回路を組み立ててみて、魔力を通してみた。
うう~む。
暗い!
俺の安物ランプよりも暗いぞ。
やっぱりこういうのって安物でもそれなりに研究されているんか。
としたら、俺の安物ランプとアレクの高機能ランプの術回路の違いはどんなところが違うのか、考えてみるか。
基本的な状態として、アレクの方は回路が細かく、複雑だ。
サイズは殆ど同じなのにもかかわらず。
・・・回路の長さが重要だったりするのか?
とりあえず、安物ランプの術回路コピーにぐるぐると銅を外側に巻いてもう一度魔力を流してみる。
確かに少しは明るくなったようだが、魔力の消費も早かった。
じゃあ、形か?
でも、2つのランプの術回路の形ってそれ程類似点が無いんだけどなぁ。
何らかの規則があるんだろうけど。
まだそこまで教わっていない。
もう何千年も人間は術回路を使ってきたのだ。
組み立て方の基本的な経験則のようなものは知識として蓄積されてきただろう。
図書館の本を読みあさっている時は、『2年で学ぶから』と飛ばしていたのだが・・・分からないのがちょっと悔しい。
ふと思いついて、安物ランプの術回路をもう一つ作ってみる。
二つ繋いだり、上に重ねたらどうなるんだろ?
繋ぐと・・・明るくなった。
ただし魔力の消費量は上がったが。
上に重ねたら魔力の消費が増えた感じがしたが明るさは変わらず。
・・・ということは、術回路を平べったくした方がいいのかな?
ついでに、術回路の形を保ったままサイズを小さくしたらどうなる?
小さいのを3つ位繋いで一つの代わりにしてはどうだろう。
・・・考えるのはたやすいが、やるのは難しいのね、こういうの。
鍵をピッキングするのには人並み以上に器用な俺なのだが・・・。
術回路を組むことに関してはあまり器用でないのかも。
つうか、道具が悪い!
学院側は銅のケーブルを半分の薄さに切ろうとするなんてあまり想定していなかったようだ。
散々悪戦苦闘していたら、シャルロに『引き延ばして薄くしたら?』と提案された。
そっか。
そんな手もあったね。
ちっ。