003 星暦549年 赤の月 13日 悪戦苦闘
魔術学院の授業は、思っていたよりも小規模だった。
神殿で行っている子供達への読み書き・算術の授業と似たようなものかと思っていたので部屋一杯の子供に教師役の大人が一人を想像していたら、こちらの授業は殆ど個人授業といった感じだった。
多いクラスで8~10人、少なければ3人。
あまりの少なさに驚いていたら、魔術というのは理解の速度も、相性も、反応も人によって全然違うからほぼ一対一で教えないと危険なのだと言われた。
どんなに才能のある生徒でも、何度かは魔力を暴走させるんだそうだ。
下手をすると教室が吹っ飛ぶかもしれないし、死傷者が発生しかねない魔術の授業だけに、少人数制で細心の注意を払って教える必要があるらしい。
・・・。
幾ら割引料金とは言っても、これは授業料分の費用はかなり高くなるのかもしれない。
ただでさえ高給取りの魔術師をこれだけ使っているのでは、人件費は無茶苦茶なレベルなのではないか。
どれだけ授業料が高くなるにしても、将来高給取りである魔術師になる手段であるこの学院を辞めるという選択肢はない。だから欝にならないように借金が幾らになるのか聞いていないのだが、最後にショックを受けそうだ。
まあ、とはいっても魔術師が奴隷扱いされているという話は聞いたことが無いから、借金の取り立てもそれ程非情ではないんだろう。
・・・多分。
・・・・・・願わくは。
しっかし。
今までだって自分の魔術を活用してきたから、系統だった魔術を学ぶのもそう難しくは無いだろうと思っていたのだが・・・甘かった。
まあ、それ程簡単にマスターできるのだったらそこら辺中魔術師だらけになっているのかもしれない。
だが。
はっきり知覚でき、存在している魔術を動かし、緩めることが出来るのに自分の中にある力を外に出すのがこれほど難しいとは思わなかった。
根気よく教えてもらい、教師に誘導してもらえば何とか力を具現化させることが出来るようになったが、自分ひとりでは全然出てこないか、もしくは一気に大量に出すぎて小爆発を起こしてしまうばかりだ。
まいったねぇ・・・。
まあ、頑張るしかないが。
ちなみに、人の魔力を動かしたり緩めたり出来る能力というのは非常に珍しいらしい。
教師に、『初めて見た』と言われた。
通常、他人の魔術というのは自分の魔力で打ち消すか、覆いかぶせて『騙す』らしい。
俺のように、変質させずに具現した状態に影響を与えられるというのは普通は無いんだそうだ。
折角なのであまり公にせず、研究するとしよう。