297 星暦553年 萌葱の月 28日 温泉って良いよね(5)
温泉浴場予定地に来た俺たちは、まず予定地の整地を始めた。
「着替え場と体を洗う場所を含めた浴室と、男女で二つずつ必要だよね。
女性の生徒や教師の方が数が少ないから、女性用は小さめで良いかな?」
チョークで線を引きながらシャルロが提案した。
そういえば、どこにするかとかどうやって学院長を説得するかを話し合うのに注意が向きすぎてて、考えてみたら実際の温泉浴場の詳細についてまだ話し合ってなかった。
が。
シャルロ、甘いぞ!
「いくら人数が少ないとは言え、少数派になることが分かっていながら魔術師になることを選んだような女性は、その権利を侵害されることに男よりもずっと強く反発するし、怖いぞ。
将来的には人数の比率が変わる可能性もあるし、どちらかが壊れたときに交代制で残った方を使うためにも、同じサイズにしておく方が良い」
裏社会だって、娼婦ギルドの下っ端娼婦を数に入れなければ圧倒的に男性社会だ。
それでもどのギルドでもある程度は女性がいて・・・それらの女性は怒らせたら他の男達よりも圧倒的に怖かった。
一般的な女性は家庭的で優しいかも知れない(本当かどうかは知らんが)。
でも、平均から外れることを恐れない女っていうのは自分や仲間の権利を守ることに関して獰猛になるんだぜ。
「確かにそうだね。
機具とかその他のデザインとかも二通り考えるのも面倒だし、同じのを二つ作ろう。
でも、今は取り敢えず一つだけ作って学院長に試して貰うのが良いんじゃないかな?」
アレクが穏やかにさらっと同意した。
・・・お前の所のお袋さんだって、お上品そうな顔をしているがあれも怒らせれば怖い人間だろうに。
もう少しシャルロに世の中というものを説明した方が良いんじゃないか?
貴族だって女の争いって中々熾烈で怖いんだけどねぇ。
まあ、館に忍び込んで皆が寝静まるのを待っている間に見ていた俺とは違って、普通に光の中で他の貴族と一緒に社交界にいたシャルロは気が付いていないのかな?
そんなことはさておき。
取り敢えず地面の整地だけは全部先にやってしまった。
アスカにちゃちゃっと頼んで土地を均して貰った後に、固定化の術を掛けるだけだったから簡単だ。
今まで頼んだことなかったから知らなかったんだけど、今回温泉場を作るに当たって協力を頼んだところ、土竜であるアスカは土の幻獣なだけあって、地面の扱いに関しては実は無敵だった。
ちなみに今回の一連の作業に対するアスカへの対価は、地下にアスカ用の温泉浴場を作ること。
アスカも実は温泉が大好きだったことが判明した。
どうせ場所も分かっているだし、地下にある温かい水流に浸かっていれば良いじゃないかと思ったのだが、直接源泉に浸かるのは水流の勢いとかもあって、あまりリラックス出来ないらしい。
「ここら辺に地下施設への入り口でも作ろうか」
アレクが浴場予定地の横を指した。
「そうだな。
アスカ、そこに地下へ行く穴を角度を付けて掘ってくれるかな?
俺たちがそれを固めて階段にするから、途中で曲がって良いから勾配は緩い目にお願い。高さは俺の身長の1.5倍ぐらいで、深さは俺の身長の10倍ぐらいかな?
そのくらい深くすれば、空洞を作っても陥没したりしないよね?」
『うむ。
だが、どちらにせよ儂が作った空間ならば余程のことが無い限り、陥没はせぬぞ』
そうなんだ?
でもまあ、学院長を安心させるために固定化の術で地下設備の天井部分も強化するけどさ。
さて。
アスカが地中を進む時は彼の前の空間の土が消えて、その後ろに現れる感じになる。
何故かアスカが通っても土の固さは変わらず、畑を掘り返してしまうモグラとは根本的に違っているのだが、頼めば実際に土をどける形で穴を掘ることも可能だ。
どけた土がどこに行くのかは不明だが。
こういう工事だって普段は掘り起こした土の始末とかも大変なはずなのだが、アスカに頼むと何故か消えてしまうので便利だ。
・・・食べてるのかね??
アスカの基本的な栄養素は魔力だと聞いた気がするが。
オマケとして土も食べるのかな?
次の更新は15日です。