296 星暦553年 萌葱の月 28日 温泉って良いよね(4)
俺たちの家は元が金持ち商人の家だったため、風呂場がある。
メイド(か下男)がバケツにお湯をくんできて入れる方式だ。楕円形の湯船にある程度お湯を入れておいて家人が座り込んで体を洗い、終わったらまたメイド(か下男)がバケツに更にお湯をくんできて上から洗い流すという典型的な金持ち用の風呂場だ。
今はそれに魔道具をとり付けて、清早か蒼流に出して貰った水をちゃちゃっと温める形にしているが。
これが貴族(といってもそれなりに金のある家系だけね)の家になると、別室で大量に湯を沸かすことである意味西の妖精森にあった温泉を人力で再現したような風呂を持っている家もある。もしくは大量に湯を作る魔道具を使った風呂場を持っているとか。
庶民だと、体が汚れたり臭くなったら桶の上にしゃがんで温いお湯をお鍋から体に掛けて体を洗い、布巾で拭くと言ったところだ。
しっかり体の汚れを落としたい時とか、冬場の寒いときは銭湯に行くと熱した岩に水を掛けて湯気を大量に出させた小部屋で垢を浮かせ、最後にそれをこすり落としてからぬるま湯で体を流し流す形式の銭湯に行く。
更に奮発するなら洗い流した後に香りのいい精油でマッサージをしてもらう事も可能だ。これはそれなりの値段がするので結婚式とか大切なデートの前に使うことが多いらしい。
魔術学院の生徒用の風呂場には、生徒が触って魔力を通すと上から温かいお湯が降ってくる魔道具があった。
くたくたに疲れているときなんかはちょっと辛かったので風呂は飛ばしたもんだ。
教師用にはちゃんと湯船にお湯を貯めるような魔道具があるそうだが、それも魔力は自分で提供するタイプ。
まあ、魔術学院には魔力がある人間しか集まっていないし、教師になる魔術師なら一定量以上の魔力を持っているんだから現存の風呂タイプで問題無いといえば無いが。
それでも、どうしても自分の魔力で入れる風呂って『寒くない』程度のぬるま湯で適当に済ましちゃうんだよね。
というか、風呂とはそう言うものだと思っていたので、あの熱々の温泉は俺の世界観を変えた気がする。
さて。
俺たちとしては魔術学院に温泉を作りたいが、源流のお湯を他の場所でも惹かれた俺たちがお湯を楽しめなくなるかも知れないので、源流の場所は秘密にすることに合意していた。
シャルロやアレクの親戚の敷地内とかには源流は通って無いし、
なので、学院長には『敷地のここに源流が流れているのでこちらに設置してはどうでしょうか』という提案はせずに、さっさとこちらで場所を指定することにした。
「ここはどうでしょう?
外から来た場合にも行きやすいですし、教師達が利用するのにも不便はありません。生徒達が時々利用するのにもそれほど不便ではありませんし」
アレクが簡単な学院の敷地見取り図を取り出し、学院長に提案した。
学院祭などの練習に使われる以外、現時点では基本的に利用されていない場所だ。
教師達の居住範囲だけでなく、どの学生寮から近くて見ることが可能なので学院祭の練習にも殆ど使われていない。
「ふむ。
悪くは無い場所だな」
「まずは俺たちが温泉を引いて風呂場を設置するんで、使ってみてくれませんか?
気に入ったら設備の建物は学院の方で建てるということでどうでしょう?」
俺たちだけが使うんだったら防寒結界を張ったテントの中で風呂に入るんでも良いが、流石に教師や生徒が使う正式な設備だったらそう言う訳にもいかないだろう。
が、必要性が分からない設備の為に平屋とは入っても家を建ててくれるほど学院長がお人好しとも思えないので、取り敢えずは試して貰う必要がある。
「まあ、お湯を引くだけだったら特に害はないだろうから試してみるが良い。
使ってみて良かったら設備の方は・・・要相談だな」
笑いながら学院長が答えた。
おっし。
温泉に入りさえすれば、学院長や教師達だってその魅力に直ぐに夢中になるさ。
なんと言っても魔術学院だ。
風呂場周りの建物ぐらい簡単に建てられる。
ふっふっふ~。
庶民は湯船につかるのではなく、北欧とかであったサウナ式です。
なので実質冬にしか利用はなかったりw
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