290 星暦553年 萌葱の月 19日 ちょっとした遠出(9)
「何だあれ??」
俺のあげた声に周りの人間(と妖精その他)が上を見上げ、驚きに目を丸くする。
「ちょっとあれ、不味くない??」
シャルロの慌てた声なんて珍しい。
それに反応したのか、蒼流が突然シャルロの横に現れた。
・・・俺だって慌てたのに、清早は現れないな。
幻想界に一緒に来ていないから?
何か闘ったり身を守る必要があるなら呼んだ方が良いか??
そんなことを考えていたら、上空にアルフォンスに率いられた集団が突如現れた。
アルフォンスと周りの妖精の動きに合わせて、巨大な魔術陣が空に現れ・・・亀裂を覆うように広がる。
「随分と素早く対応出来ているようですが、これはよく起きる現象なのですか?」
アレクがペトラに尋ねた。
落ち着いてるね~アレク。
「幻想界では時々起きる現象だが・・・頻発する訳では無い」
上空の動きに気を取られていたペトラが答えるよりも先に、いつの間にか姿を現したラフェーンが答えた。
「幻想界が現実界と重なる時期というのは界の境界が弱まっている時期でもあるので、他の界とも繋がる可能性があるのは分かっていましたが・・・実際に暗黒界に繋がってしまうとはついていない」
ため息をつきながらペトラが付け加える。
暗黒界ねぇ。
そう言えば、悪魔とかが来る世界って幻想界ではなく暗黒界だって聞いた気がする。
こんな風に暗黒界が人間界に繋がったことがあるなんていう伝説は聞いたことがないが、幻想界とはちょくちょく繋がっているのか。
大丈夫なのかな?
なんて思っていたら、アルフォンス達の創った魔術陣が亀裂を塞いでいく。
が、完全に塞ぐ前に黒い何かが亀裂からこぼれ落ちてきた。
コップからこぼれる黒い液体のように見えたそれは、俺たちに近づくにつれて何やら蠢く形になってきた。
上空のアルフォンス達が展開した魔術陣や西の妖精森の住居区を覆う結界に触れたそれは何やらバリバリ光ったと思ったら姿を消した。
が。
飛沫のように広がって結界の外にあった大樹の中程に直撃した塊は・・・ジュワっという音と共に大樹の生命力を吸い取り、みるみるうちに大きくなった。
そして生命力を吸い取られた大樹の幹は白い灰になって消えてしまう。
飛沫のようだった塊は軍馬ぐらいのサイズの5匹の魔獣となり、幹が無くなってしまって倒れてきた大樹の上の部分に食らいつき、それを吸収して更に大きくなる。
「・・・やばくね?
退治に協力しようか?」
俺たちで倒せるのかは知らんが、この生命を喰らう魔獣らしき存在を放置するのは不味いだろう。
「・・・お願いします。
ですが、あれらはとても危険です。絶対に囲まれないよう、皆さんで一緒に行動して下さい」
ペトラが剣を抜きながら答えた。
『清早!来てくれ!』
アスカに戦闘能力があるのか、聞いていない。
一緒に連携して闘ったこともないので、下手に呼び出してもしもの事があったら困るので、今回は学生時代にちょっと共闘モドキの練習をした清早に声を掛ける。
『おう!』
横に、俺に加護を与えた水の精霊が姿を現す。
やはりちょっと体が大きくなっているように見える。
それでもアスカ程の変化ではないのは、内包出来る魔力の違いか、それとも幻想界の住民ではないからなのだろうか?
まあ、どうでも良いことだけどさ。
さっきから姿を現していた蒼流はシャルロから離れないものの、水の檻を創り出して手当たり次第にこぼれ落ちた塊や魔獣へ姿を変えた存在を閉じ込めている。
気が付いたら、ラフェーンもアレクの側にいてその角をアレクに触らせていた。
「浄化陣!」
アルフォンス達の魔術陣ほどでは無いものの、大きな魔術陣が幾つもラフェーンの角から発生し、捉えられた魔獣達へ飛んでいった。
その魔術陣にぶつかった魔獣たちは、悲鳴と共に光の粉となって姿を消す。
へぇぇ。
ユニコーンは浄化の力が強い幻獣だと言われていたが、本当だったようだな。
どうやら、アレクとラフェーンは俺とアスカとは違ってちゃんと連携して力を使う練習をしていたらしい。
「昔、悪魔憑きが出たときに清早の水でダメージを与えられたけど、こいつらを清早の水で退治できる?」
「おうよ、任せとけ。
悪魔どころか下級魔獣だからね。この程度ならイチコロさ。
ちみっこいから何かを喰らって大きくなるまで見つけにくいのが問題なぐらいだ」
胸をはって答える清早に頷き、視界を同調してまだ何も喰らっていないからこそ小さく、蒼流の檻にも捕まっていない黒い塊の破片を示していく。
上から溢れた黒い滴モドキはそれなりに散らばったのだが、どうやら大問題になる前に全部始末できそう・・・かな?
12時って意外とバタバタしているのでこれからは18時更新にします。
次の更新は22日です。