279 星暦553年 萌葱の月 4日 調査(3)
>>>サイド デルヴィン・ガヴァーラ
「おい、ちょっと来てくれ!」
入り口から首を突き出して廊下にいた部下2人に声をかけ、隠し部屋へ降りていった。
流石に何があるのか分からないところに一人で降りていき、閉じ込められたりしたら笑えない。
多分、名無しがまた扉を開けてくれると思いたいが・・・盗賊ギルドの人間にそこまで期待するのも怖いしな。
降りていった地下室は意外と大きかった。
上の部屋より大きい。
手前の棚には武器や防具が幾つかおいてあり、その横には非常食と水瓶まである。
もしもの時の隠れ場所としても使う予定だったのかな?
奥には机と、書類棚がある。
そして書類棚の横には金庫が。
「開けられるか?」
後ろからついてきた名無しに声をかけたら、何も言わずに頷いてそちらへ向かったので、先に机の引き出しを調べ始める。
なにやら暗号解読用の鍵に使いそうな紙が出てきた。
おいおい。
これは金庫に入れておくべきものだろうに。
それとも、毎日のやり取りに使うからついついこちらにしまっていたら、急に早朝に税務調査が入って建物から追い出されてしまったのかな?
どちらにせよ、これは暗号課の人間が喜びそうだ。
この鍵を活用するためには、この部屋にある物には手をつけず、部屋自体を見つけなかったふりをしたほうがいいな。
・・・税務調査に極端に役に立つ書類が出てこないことを期待しよう。
いざとなったら軍部の上と国税局の上で話し合いをすることになるが、あまりにも国税局にとって重要な情報が出てきたら、取引の代償が高くなりそうだ。
「開きましたよ」
名無しから声をかけられて振り返ったら、ちょうど金庫の扉を開くところだった。
変な疑いを持たれたくなかったのか、中を見もせずに自分に場所を譲ってくれた。
早いな。
幾ら暗号鍵の発見に興奮したとはいえ、自分が一番上の引き出しを見ている間に金庫を開けてしまうなんて。
まあ、こういう凄腕は自分のような単なる軍人の家に泥棒に入ったりはしないだろうから、あまり自分には関係ないが。
しっかし。
これほど簡単に金庫が開けられるなら、情報部の重要な情報は金庫に入れて満足するのではなく、魔術師に結界でも張らせておく方がいいかもな。
隠し部屋の金庫の中からは小さ目の袋に入った宝石と麻薬か毒薬が入っていると思われる小瓶と、いくつかの書類が出てきた。
「・・・脅迫用か」
とある副大臣が軽率にも書いたらしき愛人への手紙と、数通のどこかで聞き覚えがある名前の人物が出した手紙だ。
副大臣以外は女性が書いた物が多かった。副大臣は確か婿養子だったからな。
他は、秘書として働いている女性か、役職者の妻と言ったところか?
後で確認するためにそれらの名前を書きとって金庫に戻す。
ふむふむ。
うまいこと先回りすれば、これらの人間を脅迫して何か情報を得ようとしたら、それを利用して偽情報を流せるな。
入手できた情報の可能性に思いをはせて思わずニヤニヤしていたら、名無しが声をかけてきた。
「他の部屋にも隠し場所が無いか、調べてきますね」
「ああ、そうしてくれ。俺もすぐ行く」
名無しが出ていった後に、書類棚を確認していた部下に声をかける。
「俺はあいつの後を付いて回るから、その間にこの部屋の情報を確認して、記録しておいてくれ。
この部屋が見つかったことを知られないよう、動かしたものは全て元に戻すように。
国税局の人間も書類を調べたがったら、魔術で複写するのは良いが書類の持ち出しは遠慮するよう頼め。
もしも向うがごねるようなら声をかけてくれ」
「「分かりました」」
流石にこれ以上の宝物が出てくるとは思いにくいが、あの、名無しを観察していたら、他にどんな隠し場所があるのか今後の参考にもなりそうだ。
次は20日に更新します。