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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後2年目
273/1295

273 星暦553年 翠の月 20日 お手伝い

「おはようございます」

シェフィート商会の本店はアレクの実家の隣にある。

元々事務所はシェフィート邸にあったらしいが、アレクの爺さんの時に隣の家が火事で焼け落たのでその際にその土地を買い取ったとのことだ。事務所スペースと店舗とを程よく持った本店を新築して、今までの本店兼家族の家だった場所もリフォームしてこちらは完全に家族のスペースにしたらしい。


とは言え、ちょくちょく商会の主な人や取引先などを招いたパーティをしているので、完全に私的な場所とは言えないようだが。


それはともかく。

今まではいつもアレクの実家の方に行っていたのだが、今日は本店の方へと指示されていたのでそちらに行ったらセビウス氏が待ち受けていた。


「ああ、おはよう。今日はご協力感謝するよ」

セビウス氏と一緒に待っていたホルザック氏もいつもより笑顔が2割増しアップな感じだ。

セビウス氏も笑顔満面で、今回の監査がシェフィート家にとってはとてつもなく嬉しいイベントなのが見てとれる。


一体、サリエル商会はどれだけの嫌がらせをしたんだ??


シェフィート商会は一流どころの大きな商会だ。そこらの小さな商会とは違って、違法に押しつぶそうとしたり嫌がらせをしたら出るところに出て、とことん争うだけの資金力も、気力もあるところだ。だから出来る嫌がらせなんぞ限られていると思っていたんだけどな。


「今日行くのはサリエル商会の本店と、サリエル邸です。

全ての帳簿を集めて商業ギルドへ持って行き、ギルドの人間の立ち会いの下に過去2年分の帳簿を確認していきます。

その際に隠し金庫にある帳簿や資産も全て調べて記録することになるので、怪しげな所は全て教えて下さい」

セビウス氏がにこやかに指示してきた。


「まだ娘っ子が魔術学院に入ってもいないのに、過去2年分を調べるのですか?」

監査というのが何を含むのか、全然知らないが。

パラティアが不当に魔術でサリエル商会を援助しないように見張るんだと思っていたから、明らかにあいつが手伝えない過去の分を調べるというのは不思議な気がする。


「親族が魔術師になった際に、魔術による不当な援助を与えられたかどうかなんてそう簡単には分からない。全ての商行為を年がら年中調べるわけにはいかないからな。

まず、過去2年分の事業の状態を調べて正常な状態というのを確定させ、今後それから変化がないか調べるんだ。

シェフィート商会の監査の際には、過去2年分の状態だけでなく、後で裏帳簿を付けて資産を隠すかも知れないと言うことで全ての資産もリストアップするべきだと主張されてね。

全ての店舗の床や天井、壁を徹底的に調べられた」

ホルザック氏が苦い顔をして教えてくれた。


「流石に本店や個人邸の床を全て張り直しが必要になるほど執拗に調べるつもりはありませんが。

ウィル君がいれば、少なくとも本店とサリエル邸の隠し金庫は全て分かるでしょう」

セビウス氏がつか加える。


ひぇぇぇ。

本店とシェフィート邸の床を全部張り替えさせるほど調べたのかよ??

というか、明らかに嫌がらせだよね、それ。


しっかし。

幾ら今の状態を調べて「正常な状態を確定」させたとしても、これから裏の商売を止めるとしたら売上がそれなりに下がるんじゃないかね、サリエル商会。

そして下がった分を補うために魔術で手伝わせても、分かりにくいと思うが。


とは言え、あと2年ぐらいはパラティアは『不当な利益』とやらを提供できるほどの腕が無いだろうけど。


ま、言わなくてもそのくらいはこの二人も分かってるか。


「ちなみに、ウィル君は心眼サイトで外からでも家の中を視ることが出来るとの話ですが、道に停めてある馬車の中から本店やサリエル邸の中を視て、通信機で我々に隠し金庫の場所を指示することは出来ますか?」

馬車に向いながらセビウス氏が聞いてきた。


「まあ、可能ですが。その場にいて視る方が楽ですね」

盗みに入る前の下調べでもないのに、何だって態々外から苦労する必要があるんだ?

建物の中を歩き回りながら探す方が、ずっと楽なんだけどな。


「隠し金庫の場所が分かる理由がウィル君だとサリエル家にばれると、来年の監査の前に君を殺してしまおうと相手が考えるかも知れませんからね。

出来れば君が参加していることは相手に知らせたくない」


うへぇ。

確かに、話に聞くサリエル家だったら隠し金庫の場所を暴くような奴は殺した方が楽だと考えそうだな。


幾らパラティアに『これからは悪事はしない』と言っていても、それが本当かは分かったもんじゃない。


とは言え、俺が時々監査に協力するってことを伝えておけと言っちまったんだが・・・。

でも考えてみたら、俺が監査に協力すると警告したところで、それがどういう意味を持つのかサリエル家の人間は知らないかもな。


まあ、いいや。

知らないなら知らないで、俺にとっては害はないし。

悪いことはしないと言っておきながら裏の仕事を続けていてばれたとしても俺の知ったこっちゃ無い。


「分かりました。

では、俺は馬車から通信機で伝えますので、サリエル家と本店を徹底的に歩き回って下さい」


◆◆◆◆



>>>サイド ラルト・サリエル


「おはようございます。

商業ギルドを代表して、パラティア・サリエル嬢の魔術学院入りに関連したサリエル商会の監査を執行させて頂きます、セビウス・シェフィートです」

握手の手を差し出しながら、にこやかにセビウス・シェフィートが声を掛けてきた。


はぁぁ。

パラティアに魔力があると分かったときから覚悟はしていたが。

セビウス・シェフィートの心の底から嬉しげな笑顔を見ると、気分が萎えてくる。


「お手柔らかにお願いしますよ」

シェフィート商会の監査の時には、嫌がらせも含めて親父が徹底的にやったからなぁ。

これから裏の商売を全て止めて収入が減るのに、本店とサリエル邸の床を全部張り替えることになるとちょっと痛そうだ。


弾むような足取りでサリエル商会の本店の中へ進むセビウス・シェフィートの後を続きながら、ため息を抑えた。


監査というのは前もって警告しては意味が無いという名目で、今日どこで何を調べるかは言われていない。

流石に責任者が留守では困るので、今日来ると言うことだけは聞いていたのだが。


シェフィート商会が監査を請け負ったと聞いた時から過去2年分の裏帳簿を普通の表帳簿に偽装し、もっと昔のヤバい記録は破棄するか、俺と親父以外は知らない他の町に買った家に隠した。


しかし、急いでやったからなぁ。

何か処分し忘れた物が出てこないことを祈るしかないな。


監査はまだ続きます。

次は2日に更新します。

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