272 星暦553年 翠の月 19日 記録用魔道具(6)
「どうしようか?」
3日間掛けて魔術院で特許の記録を色々調べた俺たちは、妨害用魔道具に使えそうな魔術回路を発見できずに敗北を認めることになった。
「まあ、考えてみたら魔術や魔道具というのは色々必要だから使っているものだからな。それを妨害出来たりしたら場合によっては危険だから、登録してないのは当然なのかも知れない」
アレクがため息をつきながらソファに身を投げ出した。
「かといって探知の方もなぁ。
それこそ、部屋の中とか半径10メタ以内に魔道具があるかを確認する道具なら作れるかも知れないが、結局これって全ての魔力を探知しちゃうから通信機も湯沸かし器も照明具も社印も、何もかもがひっかかって実用性がないだろう」
俺が心眼で視る分には、魔力の流れや回路に見覚えがあるので大抵の屋内においてあるような魔道具に関しては何があるのか、何が起動中なのかははほぼ一目で分かる。
だが。
これを魔道具でやろうとするのは・・・厳しい。
というか、俺たちの技能では不可能だな。
魔力を探知する魔道具はあるし、それを大きな画面に映し出すことも可能だ。が、いくら何でも働いている場所の周りにある魔道具全部の場所を認識して、想定外の物がないかを確認しろと求めるのは無理がある。
残念ながら魔力を探知する魔道具は『照明具は除く』とか『通信機は除く』といった除外項目を設けられるほど賢くはない。
「ある意味、周囲の魔道具と魔術を全部無効化するっていう方が楽だね」
シャルロがクッキーを缶から取り出しながら言った。
「確かに。
授業で理論は習ったね。王宮にも何カ所かそんな場所があるから、ウィルが忍び込んで魔術回路を盗み見してくれば良いし」
アレクが笑いながら合意した。
おいおい。
捕まったらどうしてくれる。
それに無効化の魔道具だって、魔術回路や魔術をかき消して壊してしまうタイプは多いが、壊さずに無効化するのってもっと高度だから模倣も難しいぞ。
湯沸かし器を手に取り、お茶を淹れながらアレクが肩を竦めた。
「探知や妨害は無理と。
ちょっと考え方を変えよう。
結局、セビウス兄さんが嫌がっているのは、書類を見られたり、会話を盗聴されることだ。
だから、これを防ぐ何らかの結界を作る魔道具を作れば良いのではないか?」
確かにな。
防音結界は普通の家にも設置ことがある。
こないだの防寒魔道具に使った結界に少し手を加えれば声の伝播を止める結界は簡単にできるだろう。
「防音結界の中で通信機を使っても特に問題が無いことだけ確認出来れば、それで盗聴の方が大丈夫な訳だね。
一応、部屋での会話とかの為に大きさを何段階かで調節できるようにすると良いかも。
書類を覗き見させない結界は・・・光を反射させる?」
ティーカップをアレクから受け取りながらシャルロが合意した。
「いや、別に反射までさせなくても、少し光を揺らがせる膜を作れば、書類の文字程度なら読めなくなるだろう」
シャルロが渡してくれたティーカップを受け取りながら俺も口を挟む。
「反射させちゃうと、その結界の中に光源が無いと中が暗くなっちまって仕事がしにくくなるぜ。
揺らぐ程度だったら明るさは変わらないから、仕事にも特に差し支えはないだろう。
側から見ている人がいたら目がチカチカしてくるかも知れないが」
「上方だけ常に揺らぐようにして、他の方向は必要があるときだけにしたらどうだ?
天井からの覗き見以外はあまり気にしなくていいだろう?」
アレクが提案した。
「まあ、机の後ろに人が入れるような甲冑でも飾ってない限り、誰かが後ろから覗き見しようとしたら分かるよね」
シャルロがクッキーをかじりながら同意する。
おい。
・・・普通の家や事務所には甲冑なんておいてないから。
「では、そちらの方向で頑張るか。
明日は光を揺らがせるような膜を作るのに利用可能な魔術回路が登録されているか、確認だな。
あ、ウィル。そういえば、兄がサリエル商会の監査に手伝ってくれと言っていたから、明日はシェフィート商会の方へ行ってくれないか?」
おや?パラティアが入学したらやるのかと思っていたが、もう始めるのか。
「了解。朝から行けば良いのか?」
「ああ。よろしくね」
おいおい、アレク。その笑顔、黒いぞ~。
次は30日に更新します。




