271 星暦553年 翠の月 16日 記録用魔道具(5)
「魔道具の起動を察知するか、起動を妨害する魔道具を作ってくれと兄から依頼された」
朝食を食べ終わってノンビリしていたら、アレクがお茶を注ぎながら言ってきた。
「魔術ならまだしも、魔道具の起動?」
シャルロがカップを受け取りながら聞き返す。
「セビウス氏の依頼か?」
魔術師による暗殺や、スパイ活動などが昔は多発したらしく、今でも王宮には物騒な時代の名残として魔術を探知したり妨害する仕組みがあちこちにあると聞く。
魔道具だって十分危険だし、通信機は上手く使えば盗聴器として使える。
大金を掛けるつもりがあれば、映像を記録できるのだからいけないことをやっている場面を盗撮して、脅迫することも可能だ。
書類とかを記録してあとから分析するというのもありだし。
忍び込んで大量の書類に目を通すというのは難しいが、魔石に映像として一枚ずつ記録していって後から分析すると割り切れば、費用は掛るが今の『忍び込んでも書類に目を通す時間が足りないだろう』という前提条件に基づいたちょっと杜撰な書類に関する防犯システムでは問題が生じるかも知れない。
セビウス氏が杜撰な防犯システムを構築しているとは思わないが、自分に察知できない手段で情報を盗まれるかもしれないということに警戒しているのかな?
「そう。
実際には魔石の交換が必要になるから、長期的な盗聴や盗撮は無理だとは思うが、短期的に重要な案件について話し合ったり検討するときもあるからね。
そのときに魔道具を仕組まれていたりしたら困るらしい」
「う~ん・・・。
魔術の展開や魔道具の起動を探知したり妨害する術はあるけど、そんな魔道具あるかなぁ?」
シャルロが首をかしげた。
「取り敢えず、魔術院で調べよう。
どうしても作れない場合は、最悪、シェフィート商会やセビウス氏の家にアレクがそう言った術を掛けに行けば良いし。
だが、ビジネスとしてはそういう魔道具が作れれば需要はあるんじゃないか?」
あんまり大々的には売り出せないかも知れないが。
軍部とかには密かに売り出したら、高く買ってくれるんじゃないかな?
「探知よりは、妨害の方が楽そうだね。
記録用魔道具なんて、人が隠れて記録する分には一瞬しか魔力を使わないからあれを探知するのは大変だよ」
だったら、人間を探知する魔道具なんてどうだろう?
なんか自分の首を絞めそうだし、盗賊ギルドに凄く嫌がられそうだが。
・・・やっぱり、言わないでおこう。下手に屋敷内にいる人間の数が探知できるような魔道具を作っちゃったら、もしも今後何か学院長とかに頼まれた際に余計に物事が面倒になりそうだ。
でも、そう考えてみたら、妨害する魔道具は自分用にもあった方が良いよな。
それこそ学院長が俺に話を持ってくるぐらいヤバい物を入手した人間だったら、高かろうが動いている映像を長時間記録できる魔道具を仕掛けておくぐらいのことをするかも知れない。
便利になるのも、俺らの魔道具が売れて金が入るのも良いことだが、今までに無い対応策が生じてくると言うのは色々面倒だなぁ。
ちょっと短いですがちょうどいい区切りなので。
次は27日に更新します。