270 星暦553年 翠の月 15日 記録用魔道具(4)
「これなら売り出しても出来そうだね」
3人とパディン夫人で色々映像を記録しまくり、再生させた物を確認しながらシャルロが満足げに頷いた。
立ち止まってポーズを取った姿を映像化する機能は11日に大体出来たのだが、残念ながら映像の対象が静止状態でない限りループした再生映像がちらちら動き、見ていて頭が痛くなることが判明した。一瞬で記録を取ったと思ったのだが、どうも記録した時間が長すぎたらしい。
人間というのは日常で動いている最中でも動作が止る瞬間がある。
俺みたいに周りの人間の動きというのに細心の注意を払っていた人間だと大体そういう瞬間というのが分かるので、それを狙って映像を記録してそれなりに良い映像が出来たのだが、シャルロやアレクが記録したのは中途半端に動いている瞬間が入っているため、チカチカして見ていると気持ちが悪くなってしまった。
劇場の俳優とかの映像を売るつもりなら、俳優にポーズを取らせて映像を記録するという形の方が、こっそり陰から勝手に姿を記録するのが難しなっくて良いのではないかという意見もあったのだが、やはり下手くそが記録すると頭が痛くなると言うのは一般的には致命的だという結論に達した。
家族の映像とか、結婚式とかだったら立ち止まってポーズを取るよう言ってもいいだろうから、そういうのはちょっと安めにして、動いていてもちゃんとした頭が痛くならないような映像が記録できるのはもう少し高くする。
自然な状態を記録したければ高い金を払えということだな。
瞬きぐらいの一瞬で記録しなければならないので本当に苦労したぜ。
「ちなみに、シェフィート商会は劇場とかにはそれ程特にコネがある訳では無いが、販売に関してはどうする?
直接売り込むと言うのも手だが」
アレクが使い魔ラフェーンの映像を色々な角度から見ながら聞いていた。
「あ~そうだね~。
劇場に自分から売り出しに行くって言うのも面白そう?」
シャルロがちょっと前向きな感じに返事をする。
営業活動も少ししたくなったのかな?
「いや、出来ればまだシェフィート商会を通した方が良いと思う。
その分手数料を取られることになるから悪いんだけどさ。
実は考えてみたら、これからも暫くは孤児とか裏社会に縁がありそうな子供が魔術学院に入ることになった際に俺がスポンサーに指名される可能性が高いと思うんだよね。
そいつらが何かやらかしても、俺に対して悪評が立つのは個人的には構わないんだが・・・俺たちが直接商品を売り出していたら、売上に響くかも知れないだろ?
だから直接俺たちが正面にでて売り出すのはまだ暫くやらない方が無難だと思うんだ」
シェフィート商会を通していれば、例え俺に悪評が立ったとしても噂に流されて俺たちの商品の取り扱いを断ると言うことはないだろう。
だが、俺たちが直接製造や販売を手配している場合、俺個人に対する悪評が立った場合に影響が出かねない。
「なるほど。
確かに、父上の政敵とかが何か僕に関して悪評を立てることだって考えられるしね。
じゃあ、いつも通りシェフィート商会に製造して売って貰おう」
シャルロがあっさり頷いた。
いやぁ、お前に関する悪評は多分立たないぜ。
なんと言ってもそのほんわか雰囲気は貶しにくいし、下手に悪意の籠もった言葉をお前に対して発したら蒼流にお仕置きされそうだ。
◆◆◆◆
>>>サイド ホルザック・シェフィート
「ほおう、これが今回の新商品か。
どんな機能なのだ?」
アレクが持ってきた魔道具を手に取る。
幾つかある。
いつもは大抵1つの商品を持ってきてそれの派生形はこちらに任せるのに、3つも持ってくるとは珍しい。
「こちらは、瞬間の映像を記録する物です。
例えば・・・」
何かボタンを押したら、一瞬周りが明るくなり、その魔道具から取り出した魔石を別のにはめたら突然机の前に座る自分の姿が横に現れた。
ちょうどお茶を飲もうとカップを手に持っている最中の姿が静止している。
「1つの魔石で5つほど映像を記録できます。
こちらの再生用の魔道具も記録媒体としてではなく動力として更に魔石を必要とします。映像用の魔石は大量に記録したいので無い限り、クズ魔石でも構いません。
こちらは似たような機能ですが、安い分映像を撮る相手にポーズを取って動かないで貰う必要があります。
動いている最中に取ると変な感じにチカチカして、頭が痛くなります。
まあ、俳優の姿を写す程度だったら相手にポーズを取ってじっとして貰えば良いのでこちらで良いかもしれません」
アレクが二番目の魔道具を起動すると、シャルロ君の映像が浮かび上がったが・・・何やらチカチカ微妙に動いていて、頭が痛くなってきた。
幸いにも直ぐにアレクが止めてくれたので助かったが。
「最後に、こちらは動いている映像を記録できます。
映像の長さにも寄りますが、10ミル程度で中ぐらいの魔石が必要なのでそれなりに高く付きます」
その後に起動させた三番目の映像はウィル君がどこかの若者と剣を打ち合わせているところだった。
ふむ。
これは金持ち相手には色々売り込めそうだな。
軍でも使えるかも知れない。
とは言え、軍は携帯式通信機や空滑機の購入がまだ終わっていないので、これ以上魔道具を買う予算がないかな?
「最初のは劇場ででもスター俳優の映像を売るのにでも良いかなと思っています。
取った映像を劇場の入り口近辺に設置し、こちらの再生用の魔道具だけをファン達に売りつければ少なくとも油絵よりも高く売れるでしょう」
確かにな。
変な事に映像を使われないように、記録用の魔道具はぐっと高くしておく方が良いかもしれないな。
次は24日に更新します。