268 星暦553年 翠の月 10日 記録用魔道具(2)
魔術としての記録用の術というのは普通に魔術学院で学んだが、実は記録用魔道具というのは殆ど無い。
術を魔道具へ落とし込めたメルタル師は中々の凄腕研究者だったのかも知れないな。
俺が何を言いたいかと言うと・・・。
今回は今まで良くやっていた、特許切れのアイディアを利用するという手が使えないんだよねぇ。
メルタル師もそれなりに研究を重ねてきて創り上げたのだろうから、それを俺たちが数日でちゃちゃっと改善するなんていう都合の良いことは無理だった。
「うう~ん。
あれにもこれにもって無理があるね。
確かに、演舞や訓練中の映像記録・再生は役に立つだろうし、記録そのものは一瞬にしてその姿をポスターみたいに再生するというのも需要があると思うけど、術の利用方法が全然違うからどちらもなんて欲張ったことを考えたらどっちもいつまで経っても終わらないんじゃない?」
5日間も色々試しては壁にぶつかっていた俺たちは工房でお茶を飲みながら頭を抱えていたのだが、シャルロがとうとうダメ出しをした。
「だよな・・・。
としたら、やはりポスターみたいな再生の方が需要があるかな?
学生の頃に見た『雪の姫の魔法剣士』に対する女性陣の熱狂ぶりを考えると、熱狂的なファンだったら俳優の精密な映像が買えるんだったら買いたがるだろうと思うんだよね。
実際に、劇場の側で主人公役の男の中々高値な油絵とかも売ってたし」
結婚式とか赤ちゃんの映像を残してもいいかもしれないしな。
絵と違って魔道具だったらさっさと撮れるから、子供相手には向いているだろう。
結婚式だって式を中断して絵を描くわけにはいかないから、一瞬で撮れる魔道具の方がより正確に素早く出来るし。
まあ、結婚式は特に見栄えが良いシーンを選べば良いが、子供の場合はどんどん育っていく姿を記録していこうと思ったらかなり大がかりな金額が必要になっってくるが。
「だとしたら、記録する回路を一瞬にする必要があるな」
アレクが大きく息を吐きながら立ち上がる。
記録に関わる部分の回路は大体分かったから、後は記録の時間が一瞬になるまでそれを根気よく弄る必要がある。
「じゃあ、僕はこちら側から弄り始めるね。ウィルはこっちから始めてよ」
シャルロがテキパキとそれぞれに弄る回路の部分を振り分け、作業に掛った。
シャルロは意外とこういう地味で根気がいる作業を苦にしないんだよなぁ。
俺は・・・苦手。
というか、何かを狙って待ち受ける間はじっとしているのも平気だけど、仕事としては動き回っている方が好きだな、考えてみたら。
発明家としてはちょっと失格かも(笑)。
◆◆◆◆
「ほおう、記録用魔道具ね。
メルタル師が研究しているというのは聞いたことがあったが、実用化させていたのか」
アルヌとパラティアの魔術学院でのスポンサーとして一度出て来いと学院長から連絡があったので、気分転換を兼ねて来てみたら相変わらずおっさんはお茶を飲んでいた。
「奥さんが生きていたときの映像があるので、かなり前から実用化はしていたと思いますよ?」
学院長が肩を竦めながらお茶を淹れてくれた。
「大分昔の話だったからな。
メルタル師は奥方を亡くしてからは子供達に関すること以外では大分出不精になったんだ。
魔術院に特許が登録されていないことからも分かるように、結局その記録用魔道具だって売りに出さなかったようだし。
まあ、何か面白い物が出来たらもってきてくれ。
メルタル師の基金への募金の意味もあるし、1つ買おう」
そりゃどうも。
俺たちは、そんなお情けでの買い物をして貰わなくても多数の人が買いたくなるような物を作るんだから、学院長に募金代わりに買って貰う必要はないんだけどね。
「ちなみに魔術学院でのスポンサーってなんです?
俺にはそんなの居なかったですよね?」
少なくとも、紹介された記憶はないぞ?
「昔はそれこそ保証人のような扱いだったが、今では単に何か相談したいことがあったときに気軽に相談できる魔術師がいた方が良いだろうということで設定される登録制相談相手のようなものだな。
ちなみに、お前のスポンサーは私だったぞ。色々相談にのっただろう?」
相談に乗ってくれた・・・かなぁ?
下町とかで問題が起きたときに助けて貰ったことはあるが、ちょっと魔術師になるための相談とは違った気がする。
「ほれ、ここに認証印を付けろ。
魔術学院側の手続きはこれで終わりだが、月に一度ぐらいは子供達に会って相談にのるなり気分転換に協力するなりしてやるのだな」
書類を俺に手渡しながら学院長が指示した。
・・・月に一度かいな。
それなりに頻度が高いな。
つうか、あんた俺に月に一度も会わなかったじゃん。
なんかちょっと納得いかね~。
シャルロやアレクのスポンサーとの関係がどうだったのか、聞いてみよっと。
すいません、1日遅れてましたね。次は18日にちゃんと更新するよう努力します。