267 星暦553年 翠の月 5日 記録用魔道具
メルタル師の相続人から買い取った記録用魔道具を手に、リビングへ降りていった。
「なにやってるの?」
のんびりとお茶を飲んでいたシャルロが声を掛けてきた。
「やっとお祭りや魔力検査のゴタゴタが片付いたからな。
折角買い取ったこの記録用魔道具をさっさと商品化してメルタル基金に寄付しようと思って」
メルタル師の屋敷にあった記録用魔道具は記録用と再生用とがあり、それらを組み合わせればそのまま売り出せるのだが・・・。
ちょっとかさばるし、必要な魔石が大きいから高いんだよね。
もう一工夫した方が売りやすいと思う。
一応魔術回路は既に魔術院に登録してあるから極端に急ぐ必要はない。だから祭り騒ぎの間は後回しにしていたのだが、いい加減に何とかしなければいつまで経っても『いつか金になる物』のままだ。
「記録するのと、再生するのと、別なんだっけ?」
シャルロが俺の手元にある魔道具をのぞき込みながら尋ねた。
「そう。しかも、それなりのサイズの魔石を使っているから高くつきそうだし。
最初は、遠くにいる親族や友人へのメッセージ映像を送るのにどうぞって提案する形の魔道具として売りだそうと思っていたんだが、考えてみたらこれだけ高価な魔道具を気楽に買える貴族や大商人だったら固定式通信機を持っている可能性が高いし、どうせ定期的に王都に出てきてお互いと会いそうな気もするんだよねぇ」
「固定式通信機はペアになっている魔石の相手としか通話できないから、親族全員とはやり取りできないよ。
お祖父様とかお祖母様みたいに年がいっていると王都までもそうしょっちゅうは出てこないし。
でも、記録用魔道具では話し合えないからねぇ。
小さな子供の様子を知らせたりするのには良いかも。僕はちょくちょく会いに行っているからいいけど、他の親族とかは皆アシャル兄さんところのフェリスちゃんの様子を知りたいってよく言ってるよ~」
シャルロが魔道具を弄りながらコメントした。
「ちなみに、どの位の時間を記録できるんだ?
例えばこないだのウィルとダレン先輩の演舞だったら見応えあったから、あれを記録した映像だったらそれなりの需要があったと思うが」
後からリビングに入ってきたアレクが口を挟んだ。
なるほど。
映像そのものを売り出すという手もあるのか。
まあ、勝手に映像を売り出したら映っている相手が不快だろうから断りを入れておかないと駄目だろうが。
ふむ。
自分用の映像だったら断りを入れる必要は無いよな。
「そうか。何度でも記録も再生も出来るなら、訓練の時の自分の様子を確認したり、模範を見せるのにも使えるかもな。
そうなると、軍に売れるかも知れない」
親族に子供の様子を知らせるのも良いが、軍用の方が頑張って小型化して単価を下げなくても売れそうかな。
どのくらい記録の取り直しや再生の繰り返しが出来るのかを確認して、まずは軍に売りに行ってみるか。
「と言うか、あの演舞だったら迫力あったし見応えあったから、あれを娯楽用に買おうっていう人も居たと思うよ。
僕もあったら買ったと思うし」
シャルロがにこやかに付け加えた。
「長時間記録できるならば劇とかを記録して売り出すという可能性もあるな。
ただし、その場合は密かにこっそり記録して売り出されたら劇場側が困るだろうが。
大体、どの位の距離から記録できるんだ?」
アレクが問題点を指摘してきた。
そうか。
勝手に映像を撮って売るということも可能になっちゃうかもしれないな。
「流石に、劇を全部記録しようと思ったら家が買えるぐらいの高価な魔石が必要になるから、そこまで心配は要らないと思うが・・・。
ほんの短い間だったらそれほど魔力は必要としないから、主役のポスターのより鮮明なバージョンとして使えるかもな。
だとしたら、これは再生する方だけを劇場側が売り出しても良いかもしれない」
こちらは売り出し用に安い形に加工する為の研究が必要だな。
「基金にだったら僕だって寄付したいぐらいだから、手伝うよ~」
「私もだ。丁度今は手が空いているし、どうするのか色々考えよう」
二人が声を掛けてくれた。
有り難い。やっぱり、色々話し合うと新しい考えが浮かんでくるんだよな。
次は14日に更新します。