255 星暦553年 翠の月 1日 祭りの後
「あ!!
チャンバラの兄ちゃんだ!!!」
授業が終わる時間に神殿教室へ顔を出した俺を見て歓声が上がり、何人かの少年が適当に手に持っている物を振りかざして突撃してきた。
おいおい。
俺は魔術師なんだって。
剣士じゃねえよ。
その点を声に出さずに主張するために、ここは1つ魔術師らしく対応しようと柔らかい結界を張って子供達をポワンと跳ね返した。
「こらこら、何を失礼なことをしているんだい。
こちらのウィル・ダントール氏は魔術院から派遣された魔術師の方だよ。
皆に魔術師のことを話し、魔術師になる才能があるかを確認する為に来てくれたんだから襲いかかっちゃあ駄目だよ」
祭りで俺たちの剣舞を見ていたのか、特に慌てた様子も無く教師役の神官がノンビリと皆に声を掛ける。
昨日のお祭りは良い感じに盛り上がり、子供達(そして多分大人も)に魔術師とは色々面白いことが出来る職業だという印象を与えた様だった。
散々、雲を作ったり氷菓子を渡したりする際に『明日は神殿教室の授業の後に、魔術院の人間が来て魔術師のことに関して色々話してやるから授業をサボるなよ~』と言ったお陰か、俺が授業に来ていた頃と比べても出席率がダントツに良い。
真冬に寒さを凌ぐために集まった時よりも多いぐらいだ。
「皆、昨日の祭りには来たか~?
まあ、あれで少しは魔術っていうのの片鱗に触れることが出来たと思うが、魔術師というのは色んな事が出来る。
誰でも努力すればある程度は出来るようになる料理の才能とかとは違って、魔術というのは魔力が無ければ出来ないが、その代わり才能さえあれば誰であろうと、魔術院で教育を受けることが出来るんだ。
金が無くても、奨学金を借りられるから問題無いし。
俺も下町の孤児だったが、奨学金で魔術師になった。
魔術師はそれなりに儲かる職業だからな。変な浪費癖でも無い限り、奨学金で金を借りても返金に苦労するという話はあまり聞かないから、心配する必要は無い」
ただし、殺人鬼とか性格に問題がある人間だったら魔力を封じられることになるが。
ま、それは態々ここで口に出す必要はあるまい。
「俺も魔術師になりたい!」
さっき突撃してきた坊主の一人が声を上げた。
「おう。
魔術院としても、才能のある人間を育て上げて一人でも多く魔術師にしたいからな。
だから定期的に魔術師が神殿教室を回って才能がある人間がいないか、探しているわけだ。
ちなみに、俺の手の間にある丸いのが見えるやつは手を上げてみろ」
手の間に小さめながらかなり魔力を込めた結界を張って見せた。
魔力というのは訓練していない場合は必ずしも目で見えるとは限らない。
体の中の魔力を感じることが出来て、それを目に集めることが出来れば誰でも魔力を見ることが出来るのだが、そこまで試していない子供も多いので俺みたいに魔力を視ることに優れた才能がある場合を除き、必ずしも魔力を視覚で認識できないのだ。
が、少なくともこの結界を視ることが出来れば魔力があることは確実だろう。
もっとも、今回の子供達の中では誰も手を挙げなかった。
あれ?
俺に突っ込んできた子供達のうちの一人が結界に突っ込む寸前に速度を落としていた気がしたんだけどな。
「ふ~ん、まあ良いや。
魔力というのは持っているからと言って誰にも教わらずにそれを本能的に使えるというケースは珍しい。大抵は人に教わらなければ上手く扱えないし、扱いを覚える早さも人によって大分違いがある。
今の結界が見えればほぼ間違いなく魔力がある訳だが、それが現時点で見えないからといって魔力が無いと決まったわけでは無い。
と言うことで、これからお前らに魔力があるかを調べる魔道具でテストするぞ~!」
問答無用でテストすると言う流れにしているが、暴発する危険が高い程の魔力があるので無い限り、実は魔術院に子供の魔力検査をする権利は無い。
が、俺みたいな特殊な人間以外は視ただけでは誰かが暴発する危険があるだけの魔力を持っているかどうかなんて分からない。なので子供か親が余程嫌がらない限り、魔術院からきた人間は出席している子供を全員テストしてしまうし、それに関して親や神官が異議を申し立てると言うこともあまりない。
まあ、サボった子供を後日魔術院に連れて行って検査させるほどでも無いけど。
さて。
さっきの坊主とか、あっちの女の子は魔力がありそうだが、どうかな~?
次は6日に更新します。