253 星暦553年 青の月 30日 お祭り騒ぎ(6)
ウィルの視点に戻っています
剣舞用の会場の真ん中で、ダレン先輩と会釈し合う。
魔術を使っての派手な打ち合いっていうのは今までやってこなかったので(魔術院での体術の授業は『体術』がメインであって魔術はオマケでしか無かったからせいぜい身体強化しか使ってなかった)、今回の為に見栄えの良い魔法を交えた剣技の練習を二人でした。
ダレン先輩には焔の魔剣を軍から貸し出され、俺には氷の魔剣が貸し出されている。
俺のは今日だけの臨時貸出だが、ダレン先輩のは長期的貸出らしい。
流石だね。既に貴重な魔剣を長期的に貸し出されるぐらい、軍から信頼されているようだ。
「はじめ!」
審判役(軍から派遣された人。流石に魔術師にこれは無理だった)の声を合図に、俺もダレン先輩も一気に動き出した。
「はっ!」
「ふんっ!」
ド派手にダレン先輩が焔を俺に対して打ち出してきたので、左手に氷を纏ってそれを上に打ち上げ、更に踏み込んで右の剣で切りつける。
「「「すげ~~」」」
焔が空に舞い上がったのを見た子供達の声が聞こえる。
残念ながら俺の攻撃はあっさり躱され、反撃が来た。
今回は焔を這わせた剣での切りつけ。
右前に一歩進み、体を捻りながら剣で攻撃をそらし、今度は俺が氷をダレン先輩に打ち出す。
さっきの先輩の焔よりも近距離だから反応しにくいはず・・・が。
焔と違って氷は質量があるから弾くのも焔ほど簡単では無いのに、ほんの僅かにこちらを攻撃するついでに剣がかすっただけのように見えたがあっさり氷はダレン先輩から外れ、後ろの結界へむなしくぶつかって砕けた。
ううむ。
魔法攻撃はあまり慣れていないので、取り敢えず時々見た目が派手な攻撃をする以外はダレン先輩から次から次へと繰り出される派手な(だけど比較的避けやすい)攻撃をいなしていたのだが、そうこうやっている間に、段々息が上がってきた。
最近あんまり鍛錬していないからなぁ。
(清早、次の攻撃でド派手に氷の短槍を大量に頼む)
小さくダレン先輩に目配せをしてから、最後の攻撃として多数の氷の短槍を上からダレン先輩にたたき込み、それに先輩が対応している間にどさくさ紛れに一撃入れようと攻撃したのだが・・・。
ダレン先輩がぶわっともの凄い熱を何本かの氷に当てたな・・・と思った瞬間に、俺の剣は弾き飛ばされていた。
「勝負あり!
勝者ダレン・ガイフォード!」
審判役の宣言に、観客から歓声があがる。
と言うか、俺の剣が飛ばされた段階でもう歓声は上がっていたんだけど、それが一層盛り上がったという感じかな?
あ~あ。
幾つか攻撃受けるかそらすかしてから反撃してくるかと思ったら、当たる氷の短槍の先だけ溶かすことでこれらを無視して俺の剣を飛ばすかぁ。
清早にまで手伝って貰ったのに、全然相手になってないじゃん、俺。
・・・ちょっと悔しい。
確かに、相手は専門職のプロだけどさぁ。
このお祭りの演舞に向けて練習しているところを見たダレン先輩の上司が、軍の魔術剣士の訓練に一緒に参加しても良いって言っていたんだよね。
参加したら、ほぼ間違いなく若手の魔術師が駆り出されるような案件があった際に俺に声が掛ると思うけど、考えてみたら若くて体力があって荒事にも慣れている魔術師なんてどうせそう沢山居ないんだから、どちらにせよ俺に声が掛ってくる可能性は高い。
だとしたら、一人で鍛錬するよりもダレン先輩達と一緒に訓練する方が効果がありそうだな。
「良かったよ!迫力満点だった!」
そんなことを考えていたら、シャルロが近づいてきて声を掛けてきた。
「そうか?
まあ、見映えが良いように先輩が色々と工夫して手を抜いてくれたからな。
これが実戦だったらあっという間に倒されて終わりだったよ」
ちょっとくさくさしながら答えたら、アレクが笑い出した。
「そりゃあ、ダレン先輩は専門家だ。
それこそ、魔術学院に来る前から一流の剣士達と訓練してきた軍閥一族の一人だぞ?
幾らウィルが幼い頃から苦労してきたと言っても、正面切っての打ち合いで勝とうと思うなんてちょっと無理だよ」
いやまぁ、勝とうとは思わないけどさぁ。
もう少し、相手に苦労させたい。
せめて、『見映えがいい戦い方』なんて考える余地も無いぐらい。
・・・それじゃあこの見世物の意義が半減しちゃうけどさ。
体なんぞ動かさなくて良い頭脳労働者を目指してきたはずなのだが。
実際に頭脳労働者になって肉体戦闘職に負けると、なんか悔しい。
まだ若いんだ、この際両方を目指そうじゃ無いか!!
次の更新は三日後の31日です。