251 星暦553年 青の月 5日 お祭り騒ぎ(4)
「ある程度は工夫してみたんだけど、どうしても近くで見るとぼんやりした印象になるんだよね。
だからもう作ったら直ぐに上空に上げて、客引き用の風船みたいなものにしようと思うんだけど、どうかな?」
シャルロが雲で出来た俺モドキを上空へ浮かせながら、見に来たアンディと協力してくれることになった元同期で今日時間があった数人に聞いた。
雲に関しては、術で条件付けとして『水にならない』を『高濃度』と付け合わせ、更に表面の光反射を高める術を別に掛けることで少しははっきり近くでも目に見えやすいようになった。
軽く浮力を付与して空滑機で飛ぶ程度の高さに漂うように設定し、上に浮くにつれて大きくなるようにしてあるのでそれなりに見応えがある仕上がりになったと思う。
また、下手にそのまま術を解くと高濃度なので、下にべしゃっと水が落ちてくることもあるので(君の尊い犠牲は忘れないよ、アレク・・・)、20ミルしたら雨にならない濃度で空気中に拡散するようにも条件付けもした。
後はこの術にどのくらい人気が出るかにもよるが、それなりの数の雲像を造った場合は当日の上空に空気中の水分を取り去る術でも掛けないと雲が出てくるかにわか雨になる可能性があるかも知れないので要観察ということになっている。
「うわぁ、ウィルの雲が空を飛んでるってちょっと不気味な感じ・・・」
カルスが空を見上げながらつぶやいた。
おい。
久しぶりに会ったというのに、不気味とはなんじゃい。
「不気味???
え、お祭りの見世物には向いてない??」
シャルロが慌ててアンディや他に集まった人間に問いかける。
ぶふっとタニーシャが吹き出した。
「違う違う、あの雲が不気味なんじゃなくって、雲みたいなほわほわなある意味夢のある存在がウィルの顔をしているのがちょっと印象として合わないってだけよ。
大丈夫、お祭りに来るような子供にはきっと大人気になると思うわ。
確かに近くではちょっと見づらいけど、上空にあるのは何とはなしにウィルっぽく見えるから、子供にとっては楽しさ満載でしょう」
「あれって風に乗って20ミルほど適当に動き回るのか?下手にそれを追いかけて子供が迷子にならないように、親には注意しておいた方が良いな」
アンディがメモを取りながらつぶやいた。
確かにね。
ついでに、あまりお祭りの場所からも離れないようにした方がいいかな・・・。
でも、20ミルだったらそんなに遠くまでは行かないかな?
少しそれに関しても何度か実験して確認しておいた方がいいな。
「まあ、それはともかく。
後で術の詳細は他にも手伝ってくれる皆に伝えるけど、それとは別に何か地上で子供を楽しませる物を提供した方が良いかも知れない」
アレクが声を上げた。
そう、雲を作ったらそれはそれで楽しいかも知れないが、それは上空だけの話。
他にも魔術剣士の剣舞モドキやジェスラン氏の考えている何らかの見世物があるのだから、俺たちの時間に子供が地上で楽しむ物も提供しておかないと帰ってしまうかも知れない。
「もうすぐ暑くなるし、折角暇な魔術師が集まるんだから、氷菓子でも作って売るとか?
じゃなきゃ、小さな噴水機でも作って虹が出来ますよ~って売り出すのも面白いかも?」
カルスがしゅわっと水蒸気を空に向けて吹き出し、虹を作って見せながら提案した。
「噴水機は魔道具だろうが、魔術ではなく。
でも、魔術師が大きな虹をあちこちに作っている側で、噴水機を売り出して自分で小さな虹を作れるよ~って売り出すのも悪くないかもな」
アンディがつぶやいた。
「氷菓子もついでに出そうよ。
量を少な目にして、果物とでも一緒に出せばお腹を壊さないでしょう」
シャルロが目を輝かせて提案した。
流石、甘い物には詳しいね~。
確か去年の夏だっけ、自分で作るんだから良いじゃないと氷菓子を大量に食べてお腹を壊していたもんね。
まあ、お祭りと言えば食べ物もあった方が良いよな。
次は25日に更新します。