249 星暦553年 青の月 3日 お祭り騒ぎ(2)
「3刻って言ったら、2つぐらい出し物があった方が良いね。
劇みたいのだとちょっと人数も準備期間も大変すぎかなぁ?」
シャルロがお茶を飲みながらコメントした。
「一般受けするモノが良いからなぁ。
将来は劇みたいのを考えても良いけど、今回に関しては下調べも準備する時間も足りないと思うぜ」
アンディが返す。
「魔術というものに縁が無い人達を楽しませることも考えると、一方的にこちらが何かをやって見せるのでは無く、見物人とのやり取りがあるようなものの方が良いのでは無いか?」
お茶のお代わりを注ぎながらアレクが提案した。
「子供を魔法で飛ばすとか?
でも、怖がって泣かれたりしたら困るか。
相手の形を真似た何かを魔法で作るか?」
祭りや、市場で時々見かける似顔絵の魔法バージョンだ。
「・・・絵だったら普通の似顔絵とあまり違いが無いし、下手に人気がでたりしたら似顔絵職人から嫌がられるぜ。
かと言って、人形とかだとあんまり本物そっくりだと気味が悪いと思われないか?」
アンディが考え込みながらつぶやいた。
確かに。
それに、魔術で本物そっくりな人形が作れることが広まると犯罪に悪用されかねないしな。
「氷や水で作るとか?」
シャルロが提案した。
物に何かの姿を擬態させる術はあるので、水なり氷なりで作るのは難しくない。
だが、水も氷もかなり近くで見ないと分かりにくいからなぁ。
不特定多数の人間に楽しんで貰いたい祭りでの出し物には向かないかも知れない。
実物そっくりな氷像がそこら辺中にあったら微妙に不気味かも知れないし。
もう少し、ほわっとした目に見えるけど柔らかい物の方が良さそうだな。
「高密度な霧・・・というか、雲でやるのはどうだ?
空に浮かんで段々大きくなって薄れて消えるように設定したら、空に色んな形の雲が浮かんでるのが他の場所に居る人からも見えてお祭りっぽい雰囲気になるし、数ミルで消えるから邪魔にならないし。
近くからでも見えるぐらい濃い霧を作るのにどの位の魔力を必要とするか、確認する必要があるが」
アレクが意外そうな顔をして俺のことを見た。
「ウィルにしては随分とメルヘンな提案だね。
でも、良さそうなアイディアじゃないか?
想定よりも魔力を多く使うことが分かったとしても、水を使うからいざとなればシャルロに大活躍して貰えば良いし」
おい。
ちょっと酷いぞ。
でも、考えてみたら俺だって清早に頼めばいいんだから、何とかなるか。
「だとしたら、後はもう一つの出し物だな。
俺としては、軍も誘ってダレン先輩のような魔術剣士系の人にド派手な演舞もどきな打ち合いでもやって貰ったら良いかと思うんだが。
軍にとっても、魔術を身につけてああいう派手な戦いも出来ると子供に夢を抱かせる事に利用価値はあると思うぜ?」
アンディがクッキーをかじりながら提案した。
なるほど。
俺たちの一年目の学院祭でやった派手な戦闘シーンのもっと真面目だけど派手派手しいバージョンか。
確かに、あの戦闘シーンは好評だったからな。
「ダレル先輩に頼んでみようか?」
俺もクッキーをくすねながら聞く。
アンディが首を横に振った。
「いや、ダレル先輩は軍属だ。勝手に魔術院が開催する祭りに参加するかどうかは決められないだろう。
ジェスラン氏に、魔術院からの提案という形で軍部に話を付けて貰おう。
あちらは軍属の魔術剣士を提供し、魔術院は周囲に被害が及ばないように結界を張ったりその他安全措置を請け負うというところだな」
「そうだね。
どうしても軍が駄目って言ったら、ウィルと誰かもう一人体を動かせる人にやらせれば良いし」
シャルロが頷いた。
「そうだな。
軍部が協力しなかったら、魔術院の魔術師でも派手な演舞を出来る人間がいるとジェスラン氏が匂わせればきっと軍も協力してくれるだろうし」
アレクが笑いながら付け加えた。
おいおい。
黒いぜ、アレク。
まあ、ちょっとした圧力は悪くは無いアイディアだけどさ。
次は19日に更新します。