248 星暦553年 青の月 3日 お祭り騒ぎ
ジェスラン氏に色々言いつかった俺は、翌日アンディを連れて這々の体で帰宅してシャルロとアレクに泣き付いた。
「助けてくれ~~~」
修理した自鳴琴の魔道具に耳を傾けていたシャルロが、ソファに倒れ込むように身を投げ出した俺たちに目を丸くしている。
「どうしたの?」
「ここのところ暫く、アンディに頼まれて幽霊屋敷を調べていただろ?
で、幽霊の代わりに面白い仕掛けがあったんだよ。聞いてみたら、この屋敷の持ち主だったメルタル師っていうのは魔術師や金持ちに縁が無くても魔術師になれるよう才能のある子供を教育してきた人で、俺が利用した奨学金にも色々援助してくれた人だって話でさぁ。
この際、俺も少し恩返しをしようかな~なんて思ってメルタル師の名前で基金を作って、もっと王都や地方の子供での魔術の才能がある子供を探すのをきっちり効果的にやろうって提案したんだよ」
紅茶を淹れながらアレクが左眉を上げて見せた。
「ほおう。中々良心的と言うか親切と言うか、会った頃のお前さんから考えると想像も付かないほどお人好しな提案だな」
「まあねぇ。
最近は色々上手くいっているから金に困ってないしさ。
運が味方している間に善行しておけば、運が逃げたときにそれが助けになるって言うじゃん?
まあ、それはともかく。
才能のある子供を探す効果的な方法として、まず魔術師っていうのを子供達にもっとよく知ってもらって魅力的な職業だって思わせて、向こうから寄ってくるようにお祭りでもしたらどうかって提案したんだよ。
・・・メルタル師の弟子で基金作りに協力してくれるって紹介されたジェスランっていう魔術師に」
アレクから紅茶を受け取りながらシャルロが楽しげに微笑んだ。
「いいねぇ。学院祭の出し物みたいなのをお祭りでやるの?」
「まあ、そんなことを漠然と考えていたんだけど・・・。
学院祭に来るのって結局近所の人間か、生徒の縁故だろ?もっと一般の人の目に触れるように普通のお祭りでの出し物としてやったら良いと思ったんだ。
基金を設置したり、何をするかを決めたり、色々手配するのに半年ぐらいゆっくり時間を掛けるかなぁなんて漠然と考えていたら、ジェスラン氏に今月末の休養日に祭りをするって言われて。
夜の花火や日中の召喚の見世物は彼が手配するから、3刻分ぐらい、何か考えて準備しろって言われちゃって」
少なくとも、年に4回という提案は大変すぎるということで魔術院の上層部に却下された。
で、お祭りそのものの告知や手配はジェスラン氏がやると張り切っている。
お祭りで王都の子供達の注意を引いた後に、神殿でのクラスなどで子供達に魔術師が接触して才能がある子供を探すことの手配に関してはアプレス氏が動いてくれることになった。
だけど。
急にお祭りでの出し物を考えろって言われたって・・・!!!!
「学院祭みたいに問答無用で生徒全員参加、しかもちゃんと準備用の時間も与えられているっていうならまだしも、いくら準備期間があれの倍あると言っても、何をやるのか、誰が参加するのか、いつ練習するのかも何も決まってないのに・・・もの凄い無茶ぶりだろ?」
無茶ぶり、と言いながらもけろりとした顔でアンディが付け足した。
「確かにね。ちなみに、予算とかはどうなってるんだ?
ウィルの言い出したことだからね。私達は手伝いに時間を掛けても構わない。
だが、流石に他の魔術師にも無償で手伝えというでは、今回はお祭り騒ぎだから楽しんで参加する人間がいるとしても長期的には続かないぞ?」
チラリとシャルロに目をやって、彼が頷いているのを見たアレクが苦笑いしながら答えた。
「まあ、メルタル師関係の魔術師や相続人からそれなりに資金が集まりそうだから、若手魔術師を雇う程度の日当は出せそうだ。
だから、取り敢えず魔術学院卒業後間もない若手を捕まえて、同窓会を兼ねた学院祭モドキなお祭りとしてやっていってはどうかな?
もっと経験豊かな魔術師の方による善意の参加も有りという形で」
アンディが提案する。
流石、元寮長。
学院祭でグリフォン寮を仕切っていただけある。
この調子で頑張ってくれ。
俺は大勢の人間を動かすっていうのは苦手なんだよ。
「運が味方している間に善行しておけば、運が逃げたときにそれが助けになる」は「情けは人の為ならず」(巡り巡って自分に良いことがあるよバージョンの方)に近いような慣用句だと思って下さい。
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