247 星暦553年 青の月 2日 幽霊屋敷?(10)
アプレス氏の弟弟子は思っていたよりも若かった。
アプレス氏がアレクの両親よりも年上ぐらいに見えるのに対し(魔術師は一般人よりも寿命が長い傾向があるので実際にはアレクの両親よりそれなりに年上かもしれない)、アプレス氏の弟弟子であるジェスラン氏は30代半ばぐらいに見えた。
「お祭りだって?!いいね!
早速手配だ!折角だから王都を東西南北で区切って季節ごとに毎年やろう!」
魔術院に着いたアプレス氏がジェスラン氏を呼び出して簡単に今までの話を説明したところ、もの凄い勢いで食いついてきた。
お祭りという話題に。
いや、お祭りではなく基金を設置して子供たちの魔力や才能を確認することがメインな目的なんだけど!
「まずその前に、基金の設置やメルタル師の相続人の説得が先だと思いますが・・・?」
俺の言葉をポイっと投げ出す動作をしたジェスラン氏はどこからか紙を取り出してそれに書き込み始めた。
「大丈夫、大丈夫。あの屋敷を相続したのはメルタル師の甥っ子のネフェルトだろう?
あいつもメルタル師が大好きだったから、あの屋敷の分をメルタル師の名前で設置する基金に寄付するぐらい、合意するさ。どうせ隣の土地やその他諸々からお金も入るんだし。
もしも合意しなくても、私たちが少しずつ出せばいいことだしね。
第一、魔術師の才能のある子供を探すことは魔術院にとってもそれなりに切実に必要な課題だ。きっと魔術院もこの基金や基金を使っての活動に援助してくれるよ」
何か、随分と楽観的だな。
紙に何やら書き込み終わり、俺とアンディが疑わし気な顔をしているのに気が付いたジェスラン氏がインクを乾かすために紙に手で空気を扇ぎながら説明し始めた。
「魔術師の才能というのは劣性遺伝なんだ。つまり、魔術師同士で結婚しない限り、魔術師の子供でも才能を持って生まれない可能性の方が高い。
代わりに、一般の家庭にも時々生まれるけどね。
だから、そういった魔術師に必ずしも関係の無い家庭の子供を見つけられなければ、魔術師の数はどんどん減っていくのさ。
戦争の危険があって国が魔術師の発掘や教育を支援してくれる時期ならまだしも、平和な時代が続くと魔術師の数というのは自然と減少していくものなんだよ。
現に、奨学金やその周知をしているこのアファル王国はまだしも、昔ながらの徒弟制度で魔術が教えられている隣国では魔術師の数がこの10年で2割近く減っている。大したことないと思うかも知れないが、そのまま行けば50年で半減だよ?
魔術師が建国したと言われているアファル王国ですら、今では魔術師は地方に行くと町に一人か二人しか居ない状態だ。それなりにこれは魔術院の中では問題視されてきていたんだ」
そうなのか。
まあ、魔術師の子供が必ずしも魔術師の才能を持って生まれてこないとしたら、一般の家庭から才能がある子供を見つける制度を作っておかないとどんどん数は減りそうだよな。
だが、魔術師を見つけて育てるというのは何日や何か月かで直ぐに出来るものではない。
今が平和だからと言って減るに任せておくというのは国の政策としてちょっと危ういんじゃないか?
「ネフェルトは母君の体が弱かったせいで、しょっちゅう師匠の家に預けられていたからね。
俺達もあいつと一緒に色々遊んだし、メルタル師も魔術こそは教えられなかったが他のことは色々教えていたんだ。
メルタル師が亡くなる際も色々面倒を見てほとんど毎日お見舞いに来ていたし、大丈夫だと思うよ。
じゃあ、書類を上にあげてくるからお祭りのことをもう少し考えておいてくれたまえ!」
俺達の方向にひらひらと手を振りながら、ジェスラン氏は立ち上がって部屋から出ていってしまった。
「「・・・え?」」
思わず茫然とお互いの顔を見合わす俺とアンディの肩を、アプレス氏が笑いながら叩いた。
「ジェスランは行動が早いからね。
びっくりするかもしれないが、あいつが大丈夫と言う場合は大丈夫なことが多いから、言われた通りお祭りの計画をもう少し考えておいた方が良いぞ?
魔術院は今まで祭りなんぞに関与したことも企画したこともないからな。
若者で言い出しっぺの君たちが駆り出されることはまず間違いないと思うぞ」
・・・マジ?
俺としては、提案はしたけど運営はほかの人に任せて、先にメルタル師の魔術や魔道具を活用した記録用魔道具の商品開発に取り掛かりたかったんだけど。
まあ、言い出しっぺは俺だし、ここでアンディに総投げするわけにはいかないだろうなぁ・・・。
次は13日に更新します。