244 星暦553年 紺の月 28日 幽霊屋敷?(7)
今回はアンディ君の視点からです。
>>>サイド アンディ・チョンビ
「で、原因が分かったって言ってたけど何だったんだ?」
メルタル師の屋敷の前で会ったウィルに尋ねた。
一人で居る時にどうも幽霊騒ぎが起きると言うことなので昨日一日ウィルに一人で調べて貰った。夕方に『原因が分かったぜ。メルタル師の屋敷で明日の朝8の鐘に会おう』というメモが記された式化の紙が飛んできたのだが・・・。
「おう、中々優れモノな魔術と魔道具の組み合わせだったぜ」
頷きながらウィルが正面玄関を開けて中に入っていった。
「確かここが一番近かったかな。
見てな」
綺麗な花瓶(今は花が入っていないが)が置いてあるサイドテーブルに手を伸ばしながらウィルがにやりと笑った。
「明日は雨になるって話だから、今日のうちに洗濯をしておかないとね。洗濯が必要な服を出して頂戴?」
突然現れた女性の映像はにこやかに笑いながら俺に話しかけて姿を消した。
「幽霊と言うにははっきり見えすぎじゃ無いか?」
確かにあっという間に姿を消すが、こうもはっきりと見えていると『幽霊』という感じはしない。
「中に居る人間の余剰魔力を使って起動するんだ。
元々の条件付けとして、屋敷に一人しか人間が居ない時のみ起動するようになっている上、最近は魔力のある人間の出入りが無かったから魔力が足りなくって、起動はするもののしっかりと認識出来る前に映像が消えてしまって『視界の端で何か動いたような気がする』という結果になったわけさ」
ウィルが肩を竦めながら説明した。
「家具の固定化の術に隠れていて見えにくくなっているが、屋敷の中に居る人間の余剰魔力を吸収して、中の人間が一人だけの場合に書斎においてある魔道具から映像をランダムに選択して再生する様になっているんだ」
階段に向いながらウィルが続ける。
「『余剰魔力を使って起動する』なんて凄いじゃ無いか!
魔術院の研究者にも余剰魔力を使う魔術の研究をしている魔術師が何人かいるが、実用レベルに成功している例はまだ無いはずだぞ」
「そうなのか?
ちょっと聞きたいことがあったから学院長に尋ねたら、『完成できた魔術師は少ない』って言っていたから何人かは成功したのかと思っていたんだけど」
ウィルが振り返って聞き返してきた。
おいおい。
『ちょっと聞きたいことがあって』で特級魔術師で魔術学院の学院長であるハートネット師に話を聞きに行ったのかよ。
「前から思っていたんだが、お前って本当に学院長と仲がいいな。
特級魔術師の方にそんなに気軽に会いに行けるなんて、羨ましい」
ウィルが肩を竦めた。
「まあ、色々縁があったからね。
お茶好きな、気さくな人だぜ」
「それはともかく、」書斎の扉を開けながらウィルが続けた。
「この余剰魔力を使う魔術がそれなりに有用なら、魔術院がこの屋敷を研究用に買い上げるとか、暫く借りるとかしないかな?」
「研究部門にこんな術があるようですよ・・・と話をするのは可能だが。
俺も単なる新米だからな。決定権は無いぞ」
書斎の中には大きな机と、壁一面の書籍が並んでいた。
引き出しを開けながら、ウィルが手招きをする。
「さっき見た、家の中の術に連動してるのが、この魔道具だ」
引き出し一杯に、巨大な魔石を中心にした複雑な魔道具が入っていた。
ウィルが更にその下の引き出しを開く。
「で、こちらがそれを作るために色々作った映像を記録出来る魔道具の試作品だな。
こっちに関しては、こちらとこちらを買い取りたいんで、もしも相続人が売り出すつもりだったら魔術院で適正な価格を査定してその値段で買い取るがと伝えてくれるか?」
「この大本の魔道具は買わないのか?」
ウィルが首を横に振った。
「魔道具そのものの機能はこっちの試作品と大して違いないからな。
それよりも、俺が買う魔道具や、もしかしたら魔術院が研究用に払うかも知れない資金に関して提案したいことがあるんだけど、誰か余剰魔力の研究をしている人にメルタル師に育てられたとか親しかった魔術師とか、いないかな?」