238 星暦553年 紺の月 25日 幽霊屋敷?
「で、頼みたいことがあるって何?」
結局、カラフォラ号の積荷にあった魔道具の修理は魔術回路そのものの修理で俺に出来る範囲は終わったので、残りはシャルロとアレクに任せることにして、暇つぶしにアンディからの話を聞くことにした。
ちなみに、最終的な売上(もしくは現物支給)は掛けた時間で割り振ることにした。
明らかにシャルロ達の方が時間を掛けて、貢献しているからね。
まあその分、アンディからの頼み事に報酬があったらそれは俺が貰うことになってるけど。
「実はさ、魔術院の長老とでも言って良いぐらいの魔術師が去年亡くなったんだけど、その屋敷を相続した親族がどうもそこに幽霊が居るから何とかしてくれって魔術院へ泣きついてきてね」
魔術院の一階にある喫茶コーナーでクッキーを俺に勧めながらアンディが答えた。
「幽霊??」
精霊なら何度も見たことがあるが、実は幽霊というのは滅多に見かけない。
というか、悪霊は偶に見かけるが、そうじゃない存在は気が付いたら消えているんだよねぇ。
「その死んだ魔術師って悪霊に成る程性格が歪んでいたとか、酷い死に方をしたのか?」
元から幽霊が屋敷に憑いていたのだったら、必ずしも魔術師なら幽霊が見えるとは限らないがそれでも何かは感じられるので神殿に依頼しただろう。
第一、魔術師というのは魔力に満ちているせいか幽霊にとっては傍にいると居心地が悪いらしい。
以前偶々話した神官の話では、魔術師って言うのは幽霊にとっては静電気でピリピリするような感覚があるんだとか。
悪霊がそんな世間話をするとは思えないから、消えてしまう前の幽霊を捕まえて態々話を聞いたのかと感心したものだが。
まあ、それはともかく。
本当に屋敷に幽霊が居るとしたら元からいるのではなく、魔術師本人が幽霊になった可能性が高い。
「いや?
年を取って体が弱っていた所に風邪を引いて、体力が回復しなくて眠るように死んでしまったという話だが。
性格的にも、若いときに死に別れた奥さんをずっと大事にして後妻も取らずに弟子を育てるのに熱心だったという話だから、悪霊になるような人じゃ無かったんじゃないかな?」
おや。
随分と人格者じゃないか。そんな人間が魔術院の長老とも言えるような幹部になれるなんて、魔術院も捨てたもんじゃないな。
大きな集団では、有能な人間や人格的に優れた人間ではなく政治的な動きが得意な人間が上に登り詰めることが多いと思っていたが。
奥さんに死なれて家庭生活の代わりに弟子を育てていたのが良かったのかな?
もしかしたら育てた弟子の中に政治的なやりとりが上手いのがいたのかも知れない。
「しっかし、幽霊と言ったら普通は神殿だろ?
魔術院の長老だかなんだか知らないが、何故魔術院に泣きつくんだ?」
アンディが肩を竦めながらお茶を注いでくれた。
「先に神殿には行ったものの、幽霊はいないと断言されてしまったらしいんだよ。
だが、その家に住もうと思って中の物の整理とかしていると時々若い女の声がしたり、人影が見えたりするんだそうだ。
折角の一等地にある屋敷だからな。本人が住むにせよ、売るにせよ、幽霊付きじゃあ困るから何とかしてくれって」
まあ、普通『幽霊付き』というのは『悪霊付き』を意味するから、そこに暮すのは健康的には非常に良くない。
何とかしなければ困るのは当然のことだ。
「で、魔術院の下っ端のお前が押しつけられちゃったの?」
「幸い、押しつけられそうになった段階でニルキーニ師からお前達の船の話が来たんだよ。
助かったと思っていたんだが、結局俺の役目が終わっても解決できてなくってね。
担当者になった先輩が『本当はお前の仕事だったろ』ってこっちに押しつけてきたから呪い解除にも実績のあるお前さんに助けを求めようと思って」
呪い解除は大抵個人的な関係で話が来るのだが、一応魔術師として報酬を貰うので魔術院にも報告はしている。
だからこいつにもばれていたようだ。
とは言っても、俺は単に魔力の流れを見ているだけで、本当に呪われている場合は神殿に持ってけって言うだけなんだけどね。
「解決できるかどうかは知らんが、取り敢えず数日は付き合ってもいいぜ。
勿論、魔術院から日当は出るんだよね?」
次は16日に更新します。