235 星暦553年 紺の月 4日 船探し(18)
王都に帰ってきた俺たちは、シャルロとアレクが磁器、俺は魔道具という形に分れて作業することになった。
一応、売却価格を知るために俺もある程度は磁器の価値とかについては学んでいるけど、文様や形の名称が何かまでは詳しくは知らないんだよねぇ。
だから、そう言った詳細が書いてある保険契約の資料と実物を照合させようと思うと一々資料の内容をアレクかシャルロ(もしくはセビウス氏かその部下)に翻訳して貰わなければならないので、かなり時間が無駄になる。
その点、魔道具はまたちょっと違うからね。
まずは魔力を少しずつ充填してどこで回路が切れているかを確認し、残った回路の形からどこに切れた部分が繋がるべきかを推測しながら修理して、最終的には動かしてみて機能を確認することで資料と付き合わせる。
幸いにも、カラフォラ号が運んでいた魔道具は特に危険な物は含まれていなかったので室内で実験してもいいとニルキーニ氏が許可してくれたが、そうは言っても変な風に変質していて危ないことになっていたら困るので、作動しそうな所まで修理が進んだら保護結界の中で作業をする。
磁器よりも数が少ないが、ちゃっちゃかと照合を進めているシャルロ達に比べて修理は圧倒的に時間が掛るので、シャルロ達が終わったらこっちを手伝って貰うことになりそうだ。
くるくる、きゅ~。
「腹が減った・・・」
王都に帰ってきて、昼食後に始めた最初の修理が大分進み、もうそろそろ保護結界を張ろうと思ったところで騒ぎ始めた腹の訴えに耳を傾けて一息つくことにした。
家の工房で働いていたらキッチンに入ってパディン夫人のケーキでも一切れ頂戴するんだけどなぁ。
何処かに何か軽く買いに行くべきか・・・。
そんなことを考えていたら、倉庫の扉が開き、フェルダン氏が入ってきた。
手に箱を持って。
お??
思ったより、行動が早いじゃん。
ダッチャスに行って色々無駄なあがきをしてからこっちに来るかと思っていたけど、この時間にこっちに何やら手土産を持って現れたと言うことは、ダッチャスに行ってないよな、あれ。
「やあ、フェルダン」
机で大きな花瓶を調べていたセビウス氏がフェルダン氏に気付いて声を掛ける。
「セビウス。
ウチの航海士がどうもとんでもないことをしでかしたらしいね。
今日は新たに頼みたいことがあって来たのだが、その前に君の弟君達にお詫びを言わせて貰えないだろうか?」
おや。
随分と下手に出たね。
まあ、部下がシェフィート商会の三男達が見つけた沈没船の情報を売ったなんて大顰蹙なことをしでかした上に、これから俺たちに頼み事しなくちゃならないんだものな。
気まずいこと、この上ないのだろう。
端で働いている俺に気付いていないのはまあしょうが無い。
セビウス氏では無く、俺たちに謝りたいと言っているので、及第点と言うところかな?
にこやかに頷きながら、セビウス氏が船の甲板口へ歩み寄り、中へ声を掛けた。
「アレク、シャルロ君!
お菓子だよ!」
おい。
俺は??
ちょっとむっとしながら立ち上がった俺を見て、セビウス氏がにやりと笑う。
「ウィル君は気付いていただろう?」
まあ、そうだけどさぁ。
それでも、声ぐらい掛けて欲しかったな。
近づいてきた俺に気付いたフェルダン氏が俺に気が付き、深く頭を下げた。
「ウチの航海士が情報を漏らしてしまったらしいね。
本当に申し訳なかった。
信頼できる人間を付けたつもりだったのだが、こんなことが無いようにしっかり釘を刺しておかなかったこちらの落ち度だ。
許して貰えるだろうか?」
ご丁寧だねぇ。
しかも、シェフィート商会のアレクや、オレファーニ侯爵の息子であるシャルロだけでなく、俺にもちゃんと謝るなんて大したもんだ。
「実害は無かったので、構いませんよ」
小さく肩を竦めて答えているところに、シャルロとアレクが出てきた。
二人を見て、再びフェルダン氏が謝罪と共に頭を下げる。
「そうですね、情報漏洩なんて出来ないぐらいしっかりと部下を管理しておかなかったのはそちらの失敗だとは思いますが、まあ状況が状況ですからね。
大変だったのだと思いますから、今回は構いませんよ」
アレクがちょっと厳しめな事を言いながらも許した。
シャルロは全然そんなことを気にもせず、フェルダン氏が手に持っている箱に注意がいっているようだった。
「世の中、そんな物ですよね~。
ところで、それは『カンフィー・コーナー』のケーキですか?」
おいおい。
セビウス氏の顔がちょっと引きつっているぜ。
今の台詞じゃあ、謝罪を受けて許して貰えたのか自信が持てない感じだぞ。
気にしてないからって軽く流しすぎちゃあ、駄目じゃん。
まあ、この後アドリアーナ号を動かすよう依頼してくるんだろうから、それを受けてやれば許されたということも分かるかな?
次は7日に更新します。