233 星暦553年 紺の月 4日 船探し(16)
早くカラフォラ号に戻りたいとジリジリしながら探し続けて4日。
とうとう、それらしい物が目に入った。
「あれじゃない?
砂を被ってない船っぽいよね?!」
それを真っ先に目にしたシャルロが期待に声を上げた。
「よし、直接調べちまおう!!」
今までは、砂を水打で払って場所を記録し帰りに纏めて確認していたのだが、これは砂を被っていないので砂が落ち着くのを待つ必要が無いし、なんと言っても砂を被らないほど新しいというのは非常に希望が持てる。
態々帰りまで待つ必要は無いだろう。
「そうだね。どの位の期間で砂を被るのか分からないが、ごく最近沈んだ船はアドリアーナ号以外無いらしいから可能性は高いし」
アレクが合意してくれたので、一応元の場所が分かるように目印代わりに氷の柱を現在地に立てて、船底の方へ移動した。
「横倒しになってるけど・・・見える範囲には穴は開いてないね」
近づきながらシャルロがつぶやく。
「船名って後ろと横にも書いてあるんだな?
先に後ろに回るか」
船の後尾へ回り、光を近づけて名前を探す。
「あった!!!
アドリアーナ号だ!!!」
アレクが珍しく興奮して大声を出した。
アレクもさっさとカラフォラ号の磁器や魔道具に取りかかりたくってジリジリしていたからな。
毎晩進捗情報を聞きにセビウス氏に連絡を取って長時間色々事細かに聞いていたし。
「よし。じゃあ、海面に上がって場所を確認するか。
それとも、このままでも場所分かる?」
振り返ってヴァナールに確認する。
なんと言っても、カラフォラ号を見つけた際には態々海上に上がらなくても位置情報を売れたんだ、毎日の捜索中に設置する光の記録で大体場所を把握できているみたいだよな。
満面の笑みを浮かべてアドリアーナ号を見ていたヴァナールは暫く反応しなかったが、腕に触れてもう一度質問したらやっとこちらの言葉が耳に入ったらしく、返事をしてきた。
「一応、海上にも上がって貰えるか?
大体分かるとは思うが万全を期して確認しておく方が良いだろう」
「了解~。
じゃあ、上から帰ろうか!」
シャルロが声を上げ、蒼流に頼んだのかもの凄い勢いでボートが上昇し始めた。
海上に上ってヴァナールが位置を確認するために測定している間、俺たちはカラフォラ号での作業のことをわいわいと話し合っていたのだが・・・だんだん、日差しがきつくなってきた。
「そっか、今までは海上に殆ど出てなかったから気が付かなかったけど、海の上って日差しが強いんだね。
ヴァナールが終わったらもう一度海中に潜ろうか」
シャルロが汗を拭いながら提案した。
確かに。
気のせいかも知れないけど、シャルロの鼻の先が赤くなり始めている気がするし。
蒼流に頼めば何らかの手段で日差しも遮ってくれるだろうが、まあ変なことをするよりも単に海中を進んでしまった方が楽そうだ。
「よし、終わった。
ありがとう」
ヴァナールが声を掛けてきたのでさくっと船を沈めて港へと進んだ。
◆◆◆◆
港に着き、軽い足取りで引き揚げ屋協会に向かうヴァナールに別れを告げた後、俺たちはこれからやるべき手続きに関して話し合っていた。
「引き揚げ屋協会の登録はヴァナールがダルム商会の名前でやってるから、俺たちは昼ご飯を食べたら宿屋の荷物を荷馬車で王都へ運んで貰うよう頼んで、今日中に空滑機で王都に帰らないか?」
俺が提案したら、アレクが小さく首をかしげた。
「一応、兄にも報告して、直ぐに帰ってしまって良いか確認しよう。
下手をすると、アドリアーナ号を王都へ運ぶのも頼まれるかも知れないから、そうなったらまたこちらへ戻ってくるのは時間の無駄だからな」
「え?
そのくらいはダルム商会の方で手配しているんじゃないの?」
シャルロが驚いたように聞き返す。
「私たちのような若造3人で豪華客船を王都へ運び込めたし、今回のカラフォラ号も一回り小さいとは言ってもあっさり運び込んで色々調べた後に帰ってきたからな。
魔術師でさえあれば簡単にできると思っていて元々ダルム商会で働く魔術師以外には声を掛けていないかもしれないぞ」
アレクが肩を竦めながら指摘した。
あ~。
別に成人した頃以降は、年を取っても魔力が増える訳じゃあないんだけどねぇ。
どうしても俺たちみたいな『若造』でも出来ることならベテランに出来ても当然と思っているかもなぁ。
元々、船を運ぶのは俺たちの魔力では無く、精霊の力でやって貰っているのだ。
出力が全然違う。
・・・考えてみたら、アドリアーナ号って重い鉱石とかもふんだんに積んでいたという話だからなぁ。船体に破損が無いと想定したとしても浮遊で海底から海上まで持ち上げるだけでも大変そうだな。
その後船の中から水抜きをして船員をどっかから連れてきて王都まで航海するとなると、それなりに手間と時間が掛りそうだ。
かといって、浮遊でアドリアーナ号を王都まで直接海の中を動かしていくのは無理だろう。
人間の魔力じゃあ、総量的にはそれこそ王都の魔術院の人員全員を雇うぐらいの魔力が必要になる。
そんな無駄遣いできる金は無いだろうな。
「というか、ほぼ確実に俺たちが動かす羽目になるじゃん、考えてみたら。
何で最初に普通の魔術師では船を動かして王都まで持って行くのは無理だから俺たちにその分金を払って依頼しろって話を付けておかなかったの?」
今日中に王都に帰ろうという予定(希望的観測?)が駄目になり、思わずアレクに文句を言う。
「一度失敗して相手に私たちへ頼むことがどれだけ大変な作業なのかを理解させておかないと、依頼料をケチられるだろう?
いくらシャルロとウィルに簡単にできるからって他の魔術師にとってはほぼ不可能なことなのに、『魔術院の若造』レベルの金額で依頼されたんじゃあ割に合わないからね。
・・・とは言っても、カラフォラ号に早く取りかかりたい今となってはそんなこと、どうでも良い気がしてきたが」
「そうだね~。
この状況は想定しておくべきだったと思うなぁ」
シャルロも直ぐにカラフォラ号に取りかかれないことが不満だったのか、少し不満げに文句をぶつけている。
「どうせ王都から魔術師を呼んできて、頑張って動かそうとして、無理だという結論に達して、商会のトップと打開策に関して相談するのに2日か3日はかかるだろ?
だから今日中に空滑機で王都に帰って、依頼が来るまでカラフォラ号に取りかかっていようぜ。
どうせ俺たちが王都へカラフォラ号を運んだことは分かっているんだ、自分達でどうしようもなくなったら俺たちに頼みに来るか、少なくともどうやってやったのか聞きに来るだろ」
明日の朝に依頼が来るならば待っていても良いが、明日の朝ではまだ王都からダルム商会の魔術師がこちらに着いたか否かぐらいだろう。
どう考えても直ぐには俺たちの方に話が来ないのだから、ここで物欲しげに待っている必要は無い。
さっさと帰って1日でも半日でもいいからカラフォラ号で遊ぼうぜ!
ちなみに、下で探している最中の空気圧(水圧?)は精霊達が跳ね返しているので、ひょいっと海上に上がってしまっても潜水病の心配はありません(笑)。
次の更新は1日に予定です。