228 星暦553年 紫の月 30日 船探し(11)
カラフォラ号(と言うのが引き揚げ屋協会で船首像から判明した船名だった)に翌朝たどり着いたら・・・ある意味予想通り、近くに新しく中型船が沈んでいた。
清早に頼んでおいたのでちゃんと空気の膜に覆われて中の人間は生きていたが、ストレスと逃げようとした無駄な努力のお陰か、全員が疲れ果ててぐったりとしている。
「なにあれ」
シャルロが呆気にとられたようにつぶやいた。
「泥棒さ。
船ごと盗むのはこの深さじゃあ難しいだろうとは思ったが、中の磁器なり魔道具なりを幾つか盗むだけなら魔術師がいれば出来るだろう?
そう思って一応清早に近づく人間を全員、殺さない程度に拘束しておいてくれと頼んでおいたんだ」
アレクが眉をひそめた。
「ヴァナールが情報を売ったのか?」
「もしくは本人が誰か雇ったか。
ヴァナールの名前を知っていたら雇った、知らなかったら売っただけという感じじゃないか?」
こちらが聞きたい答えを強制的に言わせる術というのは、相手の意思を打ち砕かないと完全には機能しないので戦争中か、余程の大事件で既に有罪が確定した相手にしか使えない。
だが、嘘を言っているか否かが分かる術はある。
とは言え、態とこちらが誤解するような言い回しをしたり、真実の一部だけを述べる等と言った方法で術の制限をすり抜けることは簡単なので、嘘判定の術は「はい・いいえ」で答えられるような質問にしか実質的には使えない。
特に我々魔術師を相手取っているのだから、向こうも嘘をつけないことは分かっているだろう。
だから、雇われたのだったら確実に雇い主の名前を聞いて、更にそれを確認するだろうし、反対に情報を売っただけだったらヴァナールは絶対に名前を知らせないだろう。
まあ、そうじゃなくても名前を知る手段はあるが。そうなったらヴァナールに確認すれば良いことだし。
残念ながら、ヴァナールが情報を売っただけだったらそれで罰することが出来るほどの証拠は出ないだろうな。
明らかにあいつしかこの場所は知らないが、引き揚げ屋に俺たちの後を追尾していたのだと主張されたらそれを覆す証拠は無い。
引き揚げ屋が盗みに来たと言う事実は変わらないので、単に情報を買っただけだったら情報源のことは守るだろう。じゃないとこれから情報を買えなくなるからな。
そして引き揚げ屋は昨日の晩だったらまだ引き揚げ屋協会に俺たちが発見者として登録したことを知らなかったと言い張れば注意だけで解放される。
アレクの兄さんにはヴァナールの裏切りのことを伝えるが、ヴァナール個人はダルム商会そのものとの取引に関係するような立場では無いし、態々ヴァナールをクビにするよう主張して恨みを買ってもしょうが無い。
そこら辺を説明し、この後こいつらをどうするかを相談してから拘束中の連中のところへ近づいた。
「よう。何をしているんだい?
このカラフォラ号は昨日俺たちが引き揚げ屋協会で発見者として登録してきたから横取りは駄目だぜ」
俺たちが近づいてきたのを見て立ち上がった男に声を掛ける。
「そうなのかい?
それは残念だな。
なにやらあったから潜ってみたら急に拘束されてね。ちょっと酷いんじゃないか?」
相手はふてぶてしく、文句を言ってきた。
「何を言っているんだか。
ヴァナールに雇われたのか?
今までずっと見つからなかったのに俺たちが発見したその晩にこの船をあんた達が見つけるなんて、偶然にしちゃあ出来すぎだぜ」
「そんな名前は聞いたことがないな」
男が肩を竦めてみせた。
「じゃあ、どうやってこの船の場所を知ったんだ?」
「昔に沈んだ船の場所は分からなくても、海底近くを動いている魔術師の動きなら海上からでも他の魔術師に追えるんだぜ?」
勝ち誇ったように男が答える。
追えるとは言っても、追ったとは言っていないところがポイントだが。
まあ、良いとしよう。
どうやらヴァナールがこいつらを雇った訳ではないようだ。
「ふ~ん。
まあ、実害が無いから今回は見逃してやるが、次に俺たちが探索している範囲を探ったり、近づいてきたら今度は空気無しで沈めるからな。
海の底に沈んじまえば、お前らが本当に法を犯していたのか当局に説明や証明する必要は無いんだ。
一度見逃したからって次があるとは思わないでくれよ。
仲の良い引き揚げ屋がいるなら警告を伝えてやるんだな。
横の繋がりがあると見なして誰が近づこうと同じ扱いにするぜ」
それだけ言ったら、清早に頼んでさっさとこいつらを海上へ放り出して貰った。
ついでに、問答無用で海岸まで送って貰うかな。上に居られたら目障りだ。
さて。
カラフォラ号を海底から引き抜いて、穴を塞いだら王都だな!
次は17日に更新の予定です。
明日から探索中の船の空気は冷たくなるでしょうね~。