224 星暦553年 紫の月 29日 船探し(7)
「次は2列先、左から3つ目よろしく」
メモを見ながらシャルロがヴァナール(お目付役の航海士ね)に声を掛けた。
ちなみに指示しているのは沈没船かもしれない物体があった光源の場所だ。
毎日こつこつと海底を探してきたが、まだアドリアーナ号は見つかっていない。
俺たち用の個人に見つけた沈没船としては漁船が8隻と小さな商船(殆ど漁船と変わらないぐらい何も残っていなかった)が3隻、中くらいの商船が1隻だった。
どれも、目に付いた物は回収したものの態々船を引揚げるほどの事は無いかな~という物なので確認した後には放置決定。
いい加減、もっと面白い発見があると良いのだが。
今回も、以前と同じように10%の手数料で売りさばくのを手伝ってくれるとアレクの兄貴が言っていたし。
最初は俺たちがやることに一々目を丸くしていたヴァナールだったが、最近は大分慣れてきて何も言わずに帰りの確認ルートを光源の場所を言うだけで効率よく廻ってくれている。
とは言え、俺たちの無駄話には付き合ってくれないけどね。
「お、今度は大きい船なようだね」
アレクが声を上げた。
かなりの部分は海底に埋もれているようなのでそれなりに古い船のようだが、船首像とその周辺のサイズを見る限り、以前発見したアルタルト号に近いかもしれない。
「清早、いつものお願いしていい?」
「ほいよ~」
ひょいっと清早が手を叩くと、俺たち3人の周りに空気の膜ができた。
これでボートを離れても濡れずに動き回れる。
俺とシャルロは精霊の加護のお陰で溺れないので、最初の沈没船では俺とシャルロがそのままざっくり探索をしたのだが・・・ボートを離れたら服は濡れる。
ボートに戻った後にこの寒いさなかずぶ濡れというのはかなり厳しかった。
なのでちょっとやり方を変えたわけだ。
海の中用に多少出力を修正した浮遊を使ってボートから離れ、船の周りを見て回る。
前回は特に何も考えずに水を抜いたが、考えてみたら下手をしたらあれで客室にあった装飾品などが海に流出してしまったかも知れない。
まあ、船室でそこら辺に放置してあった物は船が沈没して船室に水が流れ込んだ際に流出していた可能性の方が高いけど。
それはともかく、今回は取り敢えず水は抜かずに見て回ることにしている。
まずは何処かに穴が空いているかを確認するために周りを見て回っているのだが・・・。
結局、埋もれていなかったのは船首像を含めて全体の3分の1程度だった。
前回もだけど、船首像が上に来ていると言うことは船って尻の方が重いのかな?
それとも軽い方に船首像を付けているのか?
単なる偶然かも知れないけど。
それはともかく。
とりあえず、埋まっていない部分には目立った大きな穴は無かった。
まあ、後で回収することに決めたらその際に持ち上げて穴の有無を確認して塞げばいいかな。
じゃあ、次は中身の確認だ。
「じゃあ俺とアレクで中をささっと見てくるから、シャルロは船首像を描き写しておいてくれる?」
どうせ、こんな古い船では船名も読み取れないだろう。
船首像が一番確実だ。
後は倉庫に入っている物の一部にでもそれなりに特徴があればより分かりやすい。
「ん。でも、お腹が空き始めてきたからあまり時間はかけないでね」
頷きながらシャルロがボートに戻っていった。
確かにちょっと腹が減ったかな?
これが今日最後の確認物だから、さっと見て早く帰るか。
次の更新は5日の予定です。