219 星暦553年 紫の月 21日 船探し(2)
アレクの兄貴が、俺達を雇いたいという人を連れてきた。
何でも、商会の運命をかけた大型船が沈んでやばいらしい。
船を造るのに作った借金の最初の返済と利子を払う為に、沈んだ船の積荷だけでも回収しないと首が回らないので、なんとしても見付けて欲しいとのことだ。
「1か月までなら、君たちに1日金貨1枚払える。船員が岸にたどり着いた地点からダッチャス沖を探して貰えないだろうか」
1日金貨1枚となると、30日かかったとしたら30枚。まあ、中々悪くは無い収入だ。
いつまでもやるのは嫌だが、日にちを区切ったら悪くは無いかな。
ついでに他にも沈没船がないか探してもいいし。
・・・その際に見つけた物は俺たちのだよな?
「アドリアーナ号を見つけるまでに他の船なり何なりを私たちが見つけた場合は、それは我々の物と考えて良いのですよね?」
アレクも同じ事を考えたのか、質問をしていた。
「・・・勿論だ」
一瞬迷っていたが、欲をかかずに相手は頷いていた。
ま、当然だな。
前回見つけたアルタルト号からの合計売上額は金貨30枚なんてもんじゃあ無かった。
それを奪われるぐらいだったら自分たちでまた次の休みの時にでも沈没船探しをする。
そこは相手も分かっているのだろう。
ちらりと俺とシャルロを見て、どちらも頷いたのを確認してアレクが発言を続けた。
「良いでしょう、貴方は兄の友人でもありますし、我々も特に手を離せない何かの最中でも無いですから、手伝います。
ところで、船を発見するのは良いとして、それを回収出来るのですか?
お話を伺う限り、かなりの重量があるようですが」
そうだよなぁ。
深く沈んだ船を持ち上げようと思ったら、船の重さだけで無くその周囲の水の重量も邪魔になってくる。
俺たちは蒼流や清早がいるから船を海底から引き離すのも港へ持って行くのも簡単にできたが、普通の人間が人力でやろうと思っても場合によっては海底の船まで潜ることすら出来ないだろう。
魔術師がいたとしても、結界を張って空気を確保して潜って様子を見るのは問題無いだろうが、それだけの重量を持ち上げる出力はそう簡単には出せない。
そう考えると、俺らってもの凄く海の回収業に向いているな。
とは言え、回収に対する需要そのものがあまり無いけど。
「ああ、うちの商会の魔術師が何人かいるから、場所さえ分かれば何とかなると思う。もしも人数が足りなかったらまた君たちにも手伝って貰うかも知れないが」
『学生3人で豪華客船を海底から王都へ持ち込めたのだから、ベテランの魔術師が数人いれば大丈夫だろう』という相手の心の声が聞こえたような気がした。
あれ~?
もしかして、お兄さん、俺とシャルロが水の精霊の加護持ちだってこと言ってない?
というか、もしかしたらアレクがそのことを家族にも伝えていないかも知れないな。
一応、魔術師の特殊能力はそれなりに重要な情報だからそうそう広げるのは顰蹙を買う行為だ。
家族にぐらいは言っても良いかもしれないが、考えてみたらアレクの次兄はそれを周りに伝えるほど迂闊ではないだろうし、もしかしたらこの次兄の友人さん、沈没した船の回収がどの位大変か、分かってないかも?
まあ、いいか。
海運業がメインな商会の魔術師だったら一人ぐらい水の精霊の加護持ちがいるかも知れないし。
一応、もしも回収も手伝うことになったらいくら請求するかも探している間に相談しておこう。
いくらアレクの家族の知り合いとは言え、探すだけで無く普通の魔術師には出来ないような特殊技能を使ったサービスにはそれなりに料金を上乗せするべきだよね、やっぱり。
次回の更新はは18日の12時の予定です。