203 星歴553年 藤の月30日 疑問(3)
「蒼流から清早の適当に周りに誤魔化して来てくれって伝言を貰ったけど、どうしたの~?」
パコパコと馬に乗ってシャルロがのんびり現れた。
「よ、昨日ぶり。そっちの親戚たちはどんな感じだった?」
領主の館の入り口から街に向けて雪解けの術をかけるために下準備していた俺たちは一旦作業を止めて振り返った。
「普段は冬にこちらにはいないからね。赤ちゃんに夢中になっていたみたいだけどいい加減ちょっと退屈してきたみたい?」
「ほおう。皆、外には出ようとしないのか?」
にこやかにアレクがシャルロに尋ねる。
シャルロは肩をすくめた。
「代官が、今年の術の更新がまだ終わっていないので少し待って下さいって言ってきたみたい。もしかして、その作業やるのってアレクとウィルな訳?」
「『今年の更新』じゃあない。俺の見たところ、もう10年は術を掛けていないぜ。だから更新出来るだけの昔の術が残っていない癖に、邪魔になる程度には昔の残滓が残っているから手強い。それなのにここから街中まで今日中にやらないと宿から追い出させると代官の野郎に脅迫されたからお前さんにも助けて貰おうと思ってね」
馬から下りたシャルロが眉をひそめてこちらに近づいてきた。
「何それ。
そんな無茶苦茶な要求をするなんて変なの」
「『今年の更新が』と言っているところを見ると、その代官は毎年術を魔術院に依頼していると領主には報告して、一族が冬は王都に戻っているのを良いことにその金額を着服していたのだろうな。
あの調子だったら、他にも色々と着服していると思う」
アレクがにこやかに冷たく答えた。
応えるようにシャルロも笑う。
「じゃあ、蒼流に取り敢えずこの通りの雪と下の術の残滓を消して貰って、その代官の悪事の証拠を集めようか。
僕が術をずっと掛けていなかったって言えばそれで信じて貰えると思うけど、どうせなら絶対に領主一族と二度と仕事が出来なくなるぐらいきっちり証拠を集めて告発してやろう!」
え、精霊って術を消し去れるの??
雪はまあ水が凍った物だから、考えてみたらどけるのは水の精霊にとっては難しくはないと思うが・・・。
(清早、お前も術を消せるの??)
思わず自分の精霊にも尋ねる。
(がっちりした術を消すのは力がいるから、蒼様ならまだしも俺っちだったら大量に消すのは難しいかも知れないけど、この道にある残滓程度だったら街全体の術を消すのだって難しくないぜ)
ほえ~。
そうなんだ。
これからは術の残滓が邪魔なときには清早に頼もっと。
小さな術だったら自分でも消去出来るが、こういう大規模な外に展開してあるような術は物理的に移動範囲も広がって面倒だからなぁ。
道にある雪を消してしまえば、雪どけの術を掛けていないことなんて次に雪が降るまで分からない。事態が解決する前にまた雪が降ったら蒼流に雪を溶かして貰うことにして、俺たちはあちらこちらへと状況確認に散らばった。
証拠は・・・こちらが最初から持って行くとどうやって証拠を入手したのかとか、でっち上げでは無いのかとかで問題になりかねないからね。場所だけは特定しておいて抹消出来ないようにさりげなく保護の術を掛けるつもりだが、出来れば領主一族に動かぬ証拠を「見つけて」貰う方が本腰を入れて代官の処分を考えてくれるだろう。