198 星歴553年 藤の月 7日 防寒(3)
「お久しぶりです」
色々結界の形やら結界内でのほどよい熱の発生など確認して数日過ごしてきたが、どんな人間が買うか、それらの購入者の需要はどんな物なのかを確認しようということで、俺は軍、アレクは商会、シャルロは貴族の知り合いに聞いて回ることにした。
あまり魔術学院出身で軍に入った人間なんていない。
ということで、卒業後は騎士団に入り腕を磨いている(らしい)ダレンに話を聞くことにした。
その点、ダレンだったらガイフォード家の人間として、色々軍の中でも顔が広いだろう.....と期待しているのだが。
「おお、久しぶり。なにやら色々面白い物を作っているらしいな」
軍に半分ぐらい正式に売り込む意味も込めて騎士団に訪ねてきたら、ダレンはちょうど見回りからでも帰ってきたのか、厩にいた。
「軍には色々買って貰っています。『こんなものが欲しい』というオーダーベースでの開発も成功報酬で請け負ってますから何かあったらご連絡下さい」
ついでに売り込みをかけておく。
「ま、将来のオーダーはともかく。
今度ですね、携帯できる加熱式魔具を作ろうと思っているんですよ。
寒い中で遠乗りに行ったり見張りに立っていたりしても体が冷えないような暖房効果のある魔具。
軍でも需要があるかなぁ~なんて思って、どういう機能があったら軍にとって有用か意見をお伺いしようと来てみました」
寒い中、ただ歩き回ったり馬車を運転したりするだけだったら寒さにかじかんでいても構わない。
だが、兵というのは戦うことが目的だ。
見張りに立ている兵が寒さに体が思うように動かず、殺されてしまっては無駄すぎる。
戦時中の徴兵した農兵ならまだしも、平時にいるような専門職の兵はそれなりに訓練をして、軍としても投資している対象なのだから死なないよう、ある程度の出費はしてもいいと思っているのでは無いか。
というのが軍にも御用聞きに行けと主張したアレクの考えだった。
下町での命の安さを見てきた俺としては、下っ端の兵士なんて使い捨てに近いんじゃないかなぁ......と密かに思っていたが、どうやら少なくともダレンの視点からしたら防寒用魔具とはあり得ない無駄では無いようだった。
「ふむ。面白いな。どんな風に機能するのだ?」
「とりあえず考えているのはベルト式の魔具で、微弱な結界で風が当たるのを防ぎ、体温程度の熱を発して結界の中を暖める感じですね。
実験の結果では馬に乗っていたり何かの上に座っていたりしても結界がそれに併せて形状が変化するので、冷たい地面にでも直接座らない限りどんな体勢を取ろうと体を温めます」
結界の中で熱を発生させると、上にばかり熱がたまって顔は暑いのに足は冷えるという状態になってしまう問題をまだ解決できてないけど。
「なるほどね。風を結界で防ぐか。
この結界、もっと強く出来ないか? 矢や投げナイフの一撃を防げるなら、少しぐらい高くても買う価値があると思うぞ」
なるほど。
どうせ結界を張るなら、ついでに防御結界にするという訳か。
だけど携帯できるレベルで矢を防げるタイプのなんて言ったら、かなり高出力の魔石が無いと無理かもしれない。
そうなるとかなり高くなる。
今まで俺たちが作ってきた魔具は家庭用の物が殆どで、軍事用のような高い出力の魔石はあまり必要としてこなかった。
空滑機は軍事用に使えるが、それでも機体のサイズがそれなりに大きいので高価な小さくて出力の高い魔石を使う必要は無かったし、通信機にしたってスーツケースにそれなりに余裕を持たせたことで魔石のサイズは汎用タイプだった。
とは言え。
何事も工夫次第だ。
高価な魔石を使った魔具なんて、誰にだって作れる。
俺たちの強みは、今までに無かった工夫をこらすことだ。
この挑戦、受けてみようじゃないか。
「面白い考えですね。
何か出来ないか、頑張ってみます」
にやりと笑いながらダレンが別れに手を上げた。
「ま、防御結界が無くても俺の遠乗り用に一つは買うから、どちらにせよ出来上がったら声をかけてくれ」
まいどあり~。