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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後1年目
188/1291

188 星暦552年 橙の月 11日 防犯(2)

「どうしたの?」

お茶とクッキーを運び込んできたシャルロが頭を抱え込んでいるアレクを見て尋ねた。


「シェフィート商会の店が集中的に荒らされていてね。その対応策に関して相談していたんだ」

お茶を受け取りながらアレクが説明する。


「護衛を雇ったら?」

あっさりシャルロが提案した。


「一般の店なんだってよ。宝石とか言った高額の物を売っている専門店ではなく」

宝石店のことだとでも思ったんだろうなぁ。

流石に一般の店に護衛を雇ってペイするとは思わないだろう。

以前はかなり世間知らずだったこいつも、俺たちと一緒に商売をするようになって大分世間一般な経済感覚というものが身についてきた。


「なにそれ?嫌がらせ?」

お、鋭い指摘だな。

ある意味、アレクが最初に同じ考えに辿り着かなかったことの方が驚きだ。


「店を破壊するのではなく商品を持ち去っているから、実利も兼ねた嫌がらせと言ったところだろうな」

アレクがため息をつきながら答えた。


「商会って仕入れをどのくらい誤魔化せるんだ?ライバル商会の店から商品を盗んで自分が仕入たような顔をして売れるんだったらもっと前からそう言うことが横行しそうだが」


「商会同士の付き合いと言ったものもあるし、ライバルとは言えども同じ商会ギルドの仲間であるという考えだったからな・・・。どこがやっているのか分かれば証明するのは難しくないと思うが、どの商会がやっているかを発見するのは難しいかもしれない。

仲間だからお互いから盗むなんて言うことは考える人間が今までいなかったし、前例も証拠も無いから片っぱしから他の商会を疑って調べさせてもらう訳にもいかないだろう」

顔をしかめながらアレクがお茶を注いだ。


まあ、それこそ鍛冶屋がお互いの鉄鉱石を盗みあったりしないのと同じか。そうそう他の人間の物を盗もうと普通は考えないんだろうな。


「とりあえず、今回の問題の黒幕を見つけられればいいんだろ?経済性とか他での使い道とかを考えなくていいなら、あのペット迷子防止の時に諦めた位置追跡装置を使ってみたらどうだ?」

考え込んでいるアレクに提案してみた。


ペット迷子防止の装置は迷子になったペットが遠くへ行かないようにするとともに、どこにいるかを追跡できるモノにしようとしたのだが、あまりにも高価になってしまうから追跡装置の方は諦めた。


・・・考えてみたら、この位置追跡装置って空滑機グライダーにも使えるよな。

売ってしまったモノに関しては無理だが、自分たちの物に関しては位置発信用魔石をつけておけば見つけられる。


売るには大掛かり過ぎる上に高すぎて無理だが、自分たちのレンタルビジネスの物にだったら使ってもいいかも。

とは言ってもペットと違って空滑機グライダーは移動できる距離が大きいからなぁ。墜落場所を探すための装置として使おうと思ったらかなり出力を上げないと厳しい。


「幾ら被害が重なってくると言っても、店舗全部の商品より高くなるような位置追跡装置を使うのは流石に本末転倒だよ」

アレクが首を横に振る。


「あんとき作った試作品があるだろうが。追跡する為の装置としてはあれを使えるから、後は位置発信用の魔石を造るだけだとしたらそれ程はコストはかからないだろ?」

位置追跡装置は追跡をする為の装置を造るのに魔術師が3人かかりっきりで20日ほどもかかるから、商業用の売出しには断念した。

だが、既に造ってある試作品を使う分には別にかまわない。


「店の物を全部ごっそり盗まれちゃうの?」

シャルロが興味深げに確認してきた。


「すぐさま持ち出せるものはほぼ全て・・・かな」


「だったら追跡対象がそれなりに集まるわけでしょ?大きな位置発信用の魔石を造ってそれを割って小さくしたらどうかな?各店につき5個か10個ぐらい小さく割ったのを紛れ込ましておけば、盗まれた時に場所を見つけられない?」


確かに、位置発信用の魔石は追跡用の装置の魔石に同調させただけの簡単な物だ。

出力を追跡用の装置で補うとすれば魔石が小さくても構わない。

となったら大きな魔石を同調させた後に小さく割ってしまえば手間がかからないな。


「割ってしまったら後で再利用出来ないぞ?」

アレクが考えこみながら指摘する。


「別にそのくらいの出費ならアレクの実家が払うでしょ?普通に魔石を一個一個同調させていたら何日かかるか分からないよ」

そうだよな。追跡装置の方を無料で使わせてやるんだから、そのくらいの出費は覚悟してもらわないと。


「確かにな。何日もかけて同調させている間にまた店舗一軒分の商品を盗まれることを考えたら大型の魔石を一つ買う方が安いな」

アレクが頷く。

時間があるなら魔術師である俺たちが普通の石から魔石を造ることだって可能だが、大きな魔石となったら流石に最低でも数日はかかる。

急ぐなら時間を金で買うしかない。


「家族と相談して、大きめの魔石を買ってこよう。ありがとう」

ぐいっとお茶を飲み干しながらアレクが立ち上がった。

おや、今朝帰って来たばかりなのにまた実家へ戻るんか。

確か両親のところには通信機を置いたはずだが、魔石そのものを買ってくる必要があるとなったらどうせ王都に行くから直接話し合った方がいいんだろうな。


「ついでに、潰れそうな商会を援助するなり買収するなりすることも提案しておいたら?」

今回の黒幕を捕まえたところで、他の商会も破綻させていたらそのうちまた嫌がらせが起きるだろう。

盗んだら捕まるっていうことになったら今度は単に火を放つだけになるかもしれない。

そんなことになったら周りに被害が広がって迷惑だ。


ビジネス拡大にもそれなりに注意を払う必要ありということだな。

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