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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後1年目
178/1291

178 星暦552年 緑の月 25日 盗賊、雇われます

盗みの間はウィルの視点に戻ります

参った。

有力貴族ってそれなりに血が近いとは聞いていた。

王家の人間だって単性繁殖する訳ないんだから親族が存在するのは当然だ。

500年を超える王国の歴史の中で、古い貴族と王族はそれなりに血の繋がりも濃くなってきたのだろう。


だが。

有力貴族と皇太子の違いがこれほど少ないというのは想定外だった。

実は貴族ってそれなりに魔力がある人間が多いらしい。

魔術学院にそこまで生徒がいなかったからここまでとは思っていなかったが、有力貴族は多くの場合は家庭教師を雇って魔術は教えているんだった。


学院長にリストを貰ってから夜になるのを待っている間に4件ほど貴族の館を下見して回ったのだが、ほぼすべての屋敷の住民の誰かが魔力(しかも大した量ではなく)を持っていたお陰で痕跡がぼやけてしまい、皇太子の魔力を元に手紙を探そうという目論見はかなり厳しいものとなってしまった。


しょうがないのでプランを変更して、女性から書かれた手紙は全て強奪していくことにした。

後でどうしても返すべきと思われる手紙があったら返そう。


「さて、始めますか」

とりあえず、日中に見て回った際に書斎と寝室の隠し場所は確認した。

本当は紙を隠すなら図書室に隠すのがある意味一番安全なのだが、幸い今晩回る予定の屋敷はどれも家族と住んでいるので図書室にそのまま紙を置けないだろう。

この屋敷は鍵のかかる本棚や隠し棚は無かったので図書室は無視だ。


今晩回る予定の4件のうち2件は残念ながら隠し棚を探さなきゃならないんだが。


貴族の館の寝室は標的の社交性に比例して安全な時間が変わる。

全然外に出ない貴族の場合、夕食時間辺りが一番安全かな。

大抵の男性は夕食を食べた後に暫く書斎で仕事をするなり読書を楽しむなりすることが多い。

家族と談話を楽しむなんていう稀なケースも無きにしもあらず。

もう少し社交的になると、クラブで夕食を食べた後に友人と暫くブランディを楽しみながらカードゲームをしたり噂話にふけったりが多くなる。そうなると夕食から2~3刻ぐらいまで安全。

さらに社交的になって舞踏会へ出かけるようなタイプになれば殆ど夜明け近くまで安全だ。


学院長には言わなかったが、有力な貴族と言えば基本的に金持ちな貴族だ。

ということで学院長がくれたリストに乗っていた貴族は全て過去にリサーチ済みだった。

ここ数年で行動パターンが変わっていたらヤバいが、別に最近結婚したり初めて子供が出来たりしたのはいなかったからそれ程パターンは変わっていないだろう。


リストの残りの候補者に関しては情報屋に聞いているから明日にはもっと最新の情報が入るが、とりあえず今日は過去の知識に基づいて回る順番を決めておいた。


で。

一番目のバルガン侯爵。

かなりの石頭。だけど真面目ではあるという噂だったのだが・・・。

考えてみたら、真面目なだけの男が財務相として成功する訳ないか。


寝室の隠し金庫を開けて中を確認した俺はため息をついていた。

大量の手紙。

しかも書いた人間はどれも違う感じだ。

これがバルガン侯爵に当てられた個人的な手紙だとしても、寝室の隠し金庫に保管されているというのは非常に怪しい。

しかも、こいつったら隠し金庫が3つもあるんだぜ?

一つは書斎、もう2つは寝室。

書斎のは普通にビジネス関係の書類だった。

寝室の一つは妻と共有のようでアクセサリーとかも大量に入っていたが、最後の一つは手紙と少量の宝石と金貨だけ。

しかも宝石は足のつきにくい、ばらの裸石だ。

そんな『もしもの為』の資金と色々な人間からの手紙を大量に保管しているって一体この国の財務相は何をやっているんだか。


とりあえず、女性の気が残っている手紙を全て隠し袋に入れていくことにした。

目を通すのは明日の朝にしよう。



その後回ったガイフォード将軍の館の隠し金庫には手紙は一枚も入っていなかった。

というか、隠し金庫自体が無かった。

単に書斎にあった普通の金庫に入っていたのは財産関係の書類や遺言状と言ったような物ばかり。

ガイフォード将軍って本当に隠しモノが無いような武力バカなのか?

財務相とは別の意味で心配になってしまった俺だった。


ファルータ公爵と最後に回ったイークター伯爵の館もそこそこ手紙を隠し金庫に保管していた。

盗賊時代に『お邪魔した』時は基本的に宝石とか美術品を狙っていたのであまり注意を払っていなかったのだが、貴族って本当に怪しげな手紙を保管しているなぁ。

お互いの弱みを握りあって脅迫しあっているんかね?


◆◆◆


イークター伯爵家が終わった後に俺は学問街にある隠れ家に忍び込み、軽く睡眠をとった。

深遠なことに注意を取られ過ぎて目の前のことも見えていない学者が集まる学問街というのは、誰にも動きを見られたくない時にとても都合がいい。

一々現場で全ての手紙に目を通す訳にもいかず、かといって皇太子の魔力から手紙を割り出すのも難しいとなっては怪しい手紙を全て持って行かざるを得ず、基本的に『賊が忍び込んだ』ということを隠すことは不可能だ。


まあ、手紙しか取っていないし何も荒らしていないから表だって盗賊シーフに入り込まれたって被害届を出すのは無理だろうが、皇太子の私室に招かれるような有力な貴族の家を荒らして回っているのだ。

細心の注意を払っても安全とは言えない。


考えてみたら、これだけ労力と時間をかけて、金貨30枚っていうのも微妙だ。

とは言え、欲をかいて怪しげな手紙を活用しようとしたらほぼ確実に寿命が縮むことになるのだろう。

そこのところ、皇太子殿下も理解して学院長に多めに報酬を払って欲しいところなんだけどねぇ・・・。

はっきり請求できないことを考えると、皇太子が察するとも思えないし、可能性は低そうだ。


ちなみに。

朝食後に目を通した手紙のうち23通は脅迫用と思われる禁断の関係の手紙。

2通はどうやら本人の禁断の関係の相手から送られた手紙だった。


いくら隠し金庫にとはいえどもこんな危ない手紙を取っておくなんて、貴族の方々って意外とロマンチックなんだねぇ。

俺だったら怖くて受け取ったら直ぐに焼却するけど。


特に進展なし・・・。

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