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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後1年目
174/1296

174 星暦552年 緑の月 9日 通信機(6)

「金貨30枚と売り上げの20分の1で買ってくれたよ」

実家の長男との最終的な交渉から帰ってきたアレクが報告した。


金貨30枚!

俺たちの3カ月相当の生活費になる。

乾燥機や湯沸かし器の報酬の3倍近い。


「随分と気に入ってくれたんだね。最初の時はもうちょっと低い目の報酬を出してきたのに、何が起きたの?」

思わず尋ね返したシャルロがびっくり目になっている。


「通信機の割引契約と引き換えに、軍の穀物調達の大口契約が取れたらしい。私たちへの報酬はその割り引いた売り上げに基づくものだから最初の手取りは良いが、売上に対する報酬は思うほどは伸びない可能性が高いぞ」

アレクが答えた。

何とも微妙な表情だ。

喜ぶべきか渋い顔をするべきか、イマイチ決め切れていないようだ。


「警備隊の方は?」


「王都だけでは、シェフィート商会にとって見合うだけの購入契約が無いようだから、あまり大量には売らないらしい」


ほ~。

ま、俺としてもあまり俺が開発に携わった商品のお陰で元同僚たちが食う物に困るようになっては嬉しくないから、いいんだけどさ。


「一般への売り上げはどうなりそう?」

シャルロが興味津々に尋ねた。


「軍への入荷で手いっぱいで、暫くは一般への販売はそれなりに数が限られるらしい。お陰でかなり高い値段が付けられるかもしれないが」

高い値段つけたら軍から横流しされるだけだと思うんだけどねぇ。

あんまり横流しが酷いようなら、ギルドの長に手伝ってもらって汚職官僚をすっぱ抜いてやる。

俺たちへの売り上げを削って割引しているのに、横流しして軍部官僚の懐を潤すなんて許さん!


しっかし、つい10日ちょっと前に完成品を渡したところなのに、アレクの実家の売り込み攻勢は凄い。

流石、王国内で有数の商会なだけあるな。


「ところで。この商品に関しては、私たちの商品としてのシリーズ名は使わない方がいいのではないかと兄が言ってきた。どう思う?」


「・・・お兄さんのアドバイスの理由は?」


「軍の方から、開発チームに加わらないかとスカウトしたいと言われたらしい。シェフィート商会の人間が開発したものだと思わせておけば強引な勧誘はないだろうが・・・」


「独立した個人ビジネスだと知られたら、変な圧力をかけてくる可能性があるのか?」

俺はともかく、シェフィート商会と侯爵家の息子に圧力をかけるかね?


「なまじ色々関係があるから、絡め手でくる可能性があるな。報酬に関しては文句の言えないレベルを提示するだろうが・・・私は攻撃用魔具ばかり開発するのは遠慮したいな」


「僕も嫌!」

シャルロが首を大きく横に振った。


成程。

それこそ、下手をしたら軍のトップがシャルロの親父さんと親しい・・・なんてこともあり得るのか。

変に家族関係から話を持って来られたらこいつらは困るのかもしれないな。


「じゃあ、シリーズ名は使わない方向でいこうぜ。軍への売り上げが大部分ならあんまりそっちへ名前が売れてもしょうがないし」

人を殺す道具を作って金儲けするぐらいだったら、盗賊シーフに戻って貴族から使われていない宝石でも盗んで回る方がマシだ。



「やっほ!シャルロ~?」

突然通信機からケレナの声が響いた。


ある意味当然のごとく、通信機が完成して直ぐにシャルロは通信機を一つケレナにプレゼントしているのだが・・・。

話し合いの途中に突然邪魔が入るのはちょっと困るなぁ。


今回はもう結論に達していたから良いが、開発の話とかその他真剣な話し合いの最中に突然割り込まれては不愉快だ。

人が訪れて来るのだったらまだ門から入ってくるのが見えるからそれなりに区切りがいいところで話を切り上げられるが、通信機は本当に唐突に予告なしに割り込んでくる。


俺とアレクが『行け』と言う風に手を振ったのを見て、小型端末を持ってシャルロが部屋を出て行った。


「好きな時に直ぐに話ができるようになって便利になると思ったのだが・・・思いがけない、新しい形の弊害だな」

アレクが呟いた。

お、こいつも困ったと思っているんだ。

「とりあえずリビングの端にでも置いて、工房の扉が閉まっている時はパディン夫人に出てもらって伝言を受けてもらうことにしないか?」


「そうだな。しっかし・・・新しい魔具が出来て便利になると新しい不便が起きるとは、面白いものだな」

確かにね。

ま、これが世の中の真理なのかも。

完全に不便が無い生活なんて、存在しないのかもしれない。


とりあえずここで一区切りです。

次を考える為、明日はお休みします。


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