165 星歴552年 萌葱の月 2日 楽しい手伝い(4)
「君達がここの発見者なのか!?」
遺跡の発掘現場で又もや熱狂的な歓迎を受けた後、俺たちは本格的に手伝いに頑張ることになった。
考古学と言うのは、気が遠くなる程地味な作業の連続であると本にも書いてあったが・・・。
真剣にマジで地味だった。
遺跡の中の詳細な見取り図の作成。
各建造物のタイプと中に何があるかの大雑把な目録の作成。
壊れそうな物に対する固定化の魔術の補強。
そして細心の注意を払って建造物の中の物を記録、そして必要に応じて補修。
一軒の建物だけでもこれを念入りに行おうとしたらそれなりに大変だが、それが街一つ分丸ごとあるのだ。
終わるのが何時になるか、想像もつかない。
「大抵の遺跡だと目ぼしい物は殆ど持ち去られた後だから作業もある程度早くなるんだが、ここは完全に残っているからね。やる事が多すぎて嬉しい悲鳴をあげているところなんだ」
実際に嬉しそうな苦笑を零しながら案内を買ってでてくれたガルバ・ラツーナが言っていた。
ガルバはハラファの右腕というところらしい。ハラファが居ない時の責任者でもあるし、歴史に夢中になり過ぎて現実を忘れがちなハラファに代わって食糧の補給や寝具の用意といった事もやっているらしい。
「と言う訳で、まだ街全体の見取り図も完全には終わっていないし、中の目録作りも途中だし、当然見つかった物の補修も手を付けはじめたばかりだ。君達に希望があれば、どの作業でも手伝って貰うことはいくらでもあるけど、どれをしたい?」
「我々が見た建物の中には大量の書類や本がありましたが、あれの補修も可能なんですか?」
アレクが興味津々に尋ねた。
そう言えば、あの時書類に触ると崩壊してしまうことを知って物凄くがっかりしていたからなぁ。
「本か。あれは嬉しい発見何だけど頭を抱えてしまう問題でもあるんだよねぇ。
本を補修・復元する魔術もあるんだ。だけど、まず全体に軽く固定化をかけて触っても崩壊しないようにした後に、1ページごとに更に固定化を掛け直し、褪せたインクを復元させる術を掛けていくから・・・一冊の本でも下手をすると1年ぐらいかかってしまうんだ。本棚一つでも魔術師一人の一生分ぐらいの仕事で、この街全部の書籍となると・・・終わらない可能性の方が高いんだよね。
だから学術的に重要そうな物に狙いを付けて復元しなくちゃならないんだけど、狙いをつけるだけの判断をする為にもある程度は復元しなくちゃならないし・・・。アルマが取り組んでいるけど、手伝いたい?きっと喜ぶよ。向き不向きがあるから、向かないと思ったら別の事に移ってくれて構わないし」
ま、そりゃそうだ。やる事が山程あるのに、作業に適性が無い人間に無理矢理やらせて逃げられても、遺物を破壊されても元も子もないからな。
とりあえず、アレクと俺は本の復元作業のやり方を見せてもらう事にした。
シャルロは「向いていないと思うから」とのことで、見取り図の中にあるものの、まだ中の目録の作成が終わっていない建物での手伝いをする事にして、そちらへ向かう。
「やあ、君達が手伝いに来てくれた若者たちか。ありがとう。じゃあ、早速やって見せよう」
挨拶もそこそこに、アルマは俺たちを遺跡の中の建物の一つへ案内した。
「この建物は街の有力者の家だったか、役場だったんじゃないかと我々は睨んでいる。だからここの書籍から始めているんだ」
お、これって俺たちが最初に見た建物じゃん。幾つか、本に触って崩壊させてしまった失敗談は明かさない方が良さそうだな。
「役場って普通隠し金庫って在りませんよね?それともこの時代の遺跡はあるのが普通だったんでしょうか?」
アレクが尋ねた。
「隠し金庫?あまり発見されていないが、通常は個人宅に多いんじゃないかな?」
階段を上りながらアルマが答えた。
ふむ。壁や床の固定化も補強してあるようだな。
まあ、じゃないと床が抜けてその衝撃でせっかく発見された遺物が粉になってしまったりしては後悔しきれないもんな。
「じゃあ、ここは個人宅ではないですか?ウィルが幾つか隠し金庫を見つけていましたから」
アレクの言葉にアルマが物凄い勢いで振り返った。
「隠し金庫??何だって君達がそんな物を見つけているんだ?いや、それよりもどこにあるんだ、それ?!」
どうやら、アルマは他の2人よりも更に浮世離れした学者なようだ。
前回見付けた隠し金庫の場所を見せた。
つい習慣で中を探した後に閉めていたのだが、発掘している学者達がそれを見つけられていないとは想定外だった。
まあ、ここの隠し金庫はどうせ空に近かったけど。
ダガーは俺が貰っちゃったし、書斎の隠し金庫に入っていた書類は触ったら粉になって消えてしまったし。
だけど、考えてみたら遺跡の中でも発見されていない隠し金庫ってこの調子なら意外と沢山あるのかもなぁ。素人には隠し金庫を見つけるのって難しいのかも知れないが、学者達にプロの盗賊を雇うという考えが浮かぶとは思えない。
ふむ。
だけどまあ、これ程荒さずに遺跡を見つけられた事に感謝されると今後遺跡を見付けたとしても金庫荒らしはし難いな・・・。
本の修復作業は・・・説明から想像していたよりも更に上をいって細かく、時間のかかる作業だった。
それでもめげないアレクを残し、俺は街の見取り図作成作業に参加する事にした。
ま、3人とも違う作業をしたらお互い違うことを聞けて面白いだろうし。
ついでに隠し金庫の場所を全部マークしておいてやるか・・・なんて事を考えながら俺は指示された街の西端へ向かった。
iPadから投稿しているんですが、どうしてもスペースが半角になってしまい、タイトルがずれてしまう様子。
どーでもいい事なんですが、何か気になる・・・。