164 星歴552年 萌葱の月 2日 楽しい手伝い(3)
「君たちが今回ボランティアに来てくれた若者たちかね?助かるよ。オレファーニ家や歴史学会が援助をしてくれるものの、どうしても予算は厳しくてね。ボランティアで来てくれる様な奇特な若者に頼らないと非常に苦しい状況でね」
研究団の責任者であるというハラファ・ダーロンがにこやかに握手の手を差し出しながら挨拶をしてきた。
「どう致しまして。ここの事は前から気にかけていたので、お祖母様から話を聞いて丁度いい機会だったし、今回は休暇を兼ねて手伝いと勉強をさせて貰いに来ました」
ハラファの手を握り返しながらシャルロが答えた。
「前から気にかけていた?考古学に興味があるのかね?」
ハラファが尋ね返す。
「ここら辺で少年期を迎えた人間は基本的に皆ありますよ。まあ、僕たちは第一発見者として特にここの遺跡の事は気にかけていましたけど」
ハラファの目が大きく見開かれた。
「第一発見者!君たちがあそこと見つけてくれた、レディ・トレンティスの魔術師のお孫さんなのか!?」
ハラファの勢いに一瞬シャルロが引いていた。
「ええ。学院の中休みに遊びに来ていた際に偶然」
いや、最初から見つかっていた遺跡の地下牢を発見したのは偶然だったが、今回発掘を手伝う方の遺跡の発見は偶然と言うのは語弊があると思うぞ。
ありゃあシャルロの意図と蒼流というコネから起きた事象であって、『偶然』という言葉の定義に当て嵌まるとは思えない。
ま、どうでもいい事だけどさ。
ハラファは感激した様にさっき握手したシャルロの手をブンブン両手で握って振り回した後にアレクや俺の手まで握ってきた。
「君達があそこの発見者なんだね!本当にありがとう。我々は言葉に表せないぐらい感謝しているんだよ。本当に、本当にありがとう!」
そんなに新しい遺跡の発見って大きなことなのか。
時々発見があったって聞くが。
「新しい遺跡の発見その物も素晴らしいが、発見の後に中を荒さずに歴史学会の方へ連絡をくれるケースなんて我々にとってはほぼあり得ない僥倖でね。
お陰で今回の発掘では今まで議論されてきた様々な理論の真偽の証明が出来るだろうと期待出来そうなんだ」
成る程。古い都市が遺跡になる場合、基本的にそれは人里離れた場所になる。今でも普通に人間が住んでいる場所にあったら遺跡と言うよりは旧街という感じになり、大抵の場合は「遺跡」として研究価値のあるモノになる前に再利用されて殆ど何も残らなくなるだろうし。
人里離れた場所に行く様な人間は限られている。良くて冒険者、悪けりゃ山賊だ。
どちらも、遺跡を発見したらそれが周知の事実になる前に金目の物を徹底的に売り払うだろう。
となると研究者としては、その遺跡の状態が元々そうだったのか、発見者に取られた後なのか判断が難しいし、何が取られたのかも想像するしかなくなり、その遺跡の全体像と言うのはかなり片寄った(金目の物がない)状態になってしまう。
そう考えると、ほぼ全く手をつけていない状態で学会の方へ報告されたあの遺跡は奇跡のような物だったのかも知れない。
俺たちは半日程度しか見て回る暇が無かったし、シャルロがレディ・トレンティスに頼んで『僕らの』遺跡が荒されないようにと見張りを付けていたし。
どの位の違いが生じるのか、興味深い所だな。
とは言っても、元の住民が引き払った際に持ち運べる金目の物は持ち出されていただろうけど。
ハラファの熱狂的な感謝が終わり、俺たちは遺跡へ出発することになった。
「他の方達は?あと3人ほどいると聞いていましたが」
アレクが尋ねる。
「ああ、残りの連中は遺跡の側でテントに寝泊りしているよ。寝心地も食事もこちらの方が比べ物にならないぐらいいいんだが、2刻の移動時間がもったいなくてね。特に天気が悪いと予想が出ている時や誰かを迎えに来る時以外はあちらでずっとすごしている」
ふむ。
と言うことは、これから数日はテント生活か。
でも、シャルロはこっちに戻ってきて夜だけでもケレナに会いたいだろう。
「空滑機を持っていくか。俺とアレクはともかく、シャルロは家に戻ってくる必要があるだろう?」
俺の提案に、アレクがニヤッと笑って合意した。
「そうだな。夕食の間だけでも一緒にいられなければ、こちらまで来た意味が半減だよな。
浮力の術回路の出力を上げて浮かせて引っ張れば馬の負担にもならないだろうし」
本当は空滑機で行けばもっと早いのだが、流石に迎えに来てくれたハラファを置いて先に行ってしまう訳にもいかないし。
さて。遺跡発掘だ!