155 星暦552年 青の月 6日 飛ぶ?(4)
「ふうん、三角と言うよりは、台形に近い横長な形だね。頭の方で三角が抉れる形になっているのってその方がはばたくのに力が込め易いからかな?」
ケレナの鷹、アーシェの翼を広げさせた姿をじっくり観察しながらアレクが呟いた。
「はばたく必要がないんだから、抉る必要はないな。まあ、抉った台形と横長三角形とどちらがいいかは後で試してみよう」
俺がアレクに答える。
「ねえ、前側の方が筋肉とか骨が付いて分厚くなっているのってどうしてなのかな?一様に筋肉がつくより、前の方に纏まっている方が何かの理由で効率的だったのかもね」
シャルロがアーシェの翼を撫でながらコメントした。
うわ~。
それだけ大きな爪と嘴をもった猛禽の翼を良く触れるねぇ。
流石、鷹狩りにも馴染みもある貴族様というところなのかな。
まあ、シャルロのことだから子供のころから動物たちにも愛されて、『噛まれるかもしれない』というような警戒心を持っていないのかも。
今だって妖精王がいるからきっとあの鷹はシャルロのことを噛もうなんて夢にも思わないだろうし。
「確かにな。一様に筋肉がついていない理由はそれなりに有るだろうね。あまりじっくり近距離から見た覚えは無いが、他の鳥も基本的に肩付近に厚く筋肉がついていて、翼の先の方に行くにつれて薄くなっていた気がする。厚みを前につけた方が安定するのかもしれない」
アレクが頷いた。
「じゃあ、ちょっと飛ぶところを見る?」
俺たちが一通り観察するのを黙って見ていたケレナが提案してきた。
「そうだね。飛んでいる時にどんな感じに風を受けているのか見てみたいし」
シャルロがにっこりケレナに笑いかけた。
ケレナがカバーをかけた腕に鷹を乗せて歩きはじめる。
ほおぉ~それなりに大きな鷹を腕にのせて歩けるなんて、思ったよりも力持ちだな。
しっかし。
考えてみたら、鷹ってそれなりに上空を飛ぶんじゃないのか?
視力・心眼ともに悪くない俺だが、それなりの高さの上空を飛んでいる鷹の翼がしっかり確認出来るのか?
そんなことを思っていたら、庭の中央に出たケレナが腕を振り上げる。
バサバサ!!
アーシェがはばたきとともに上空へ上がり・・・かなり小さくなってしまった。
それなりの高度を取るまでははばたいているのではっきり翼が見えず、上がってからは距離がありすぎて羽根があまり見えない。
でも、上で滑空するように空を滑るアーシェの翼は奇麗に横に広げられていた。
「・・・目の前で俺たちの為に広げていた時よりも、大きくないか?」
「構造的にそれなりに柔軟で折り曲げられるようになっているんだろうな。だが、あれって上昇気流にでも乗っているのだろうが、どうやってそれを見つけているんだろう?」
「・・・感覚?」
シャルロが首を傾けながら答えた。
「上昇気流って要は他よりも暖かい空気が上がっていっているということだろ?だとしたら、空気の温度差が視えるような魔具を作れば何とかならないか?」
集中すれば、俺も上昇気流が視える。
落ち着いて心眼を凝らせば、空気中のエネルギーが魔力に近い形の淡い煌めきとして視えるので、その煌めきが多いところが上昇気流だ。
ただ、他のことに気を取られていたらちゃんと認識することは難しい。
空の上にいる時にそんなものを見分けるのは至難の業かもしれない。
何か、そういったエネルギーの煌めきを増幅させて視認出来る眼鏡の魔具でも作ることが出来れば、滞空時間も上がる可能性がありそうだ。
「温度差の視覚化か?そんな術回路は聞いたことが無いが」
アレクが疑わしげに答えた。
「まあ・・・確かにな。でも、せめて木とか枯れ葉が風にあおられて上向きに動いていることが視えるような遠距離用の眼鏡でもあった方がいいかもしれない」
「とりあえず、空を飛ぶ道具を作ってちょうだい。まずは飛べることが重要よ。上昇気流を見つけられるようになって滞空時間が長くなったら素晴らしいけど、そっちの道具に気を取られて肝心の空を飛ぶ為の魔具が遅れては意味が無いわ」
ケレナが俺たちの会話に釘を刺した。
・・・ごもっともです。
ついつい些事にも拘りたくなってしまう俺たちって実はアレクだけじゃなくって皆凝り性なのかもしれないな。
「ははは、その通りだね」
シャルロが笑いながらケレナに答える。
「とりあえず、まずは僕とアレクで翼の形を工夫して、その間にウィルが骨組みを作る為のパイプを開発して。それが終わったら浮遊の術回路を探しだすか開発するかしないとね」
これからのステップを簡単にケレナに説明しているシャルロを余所に、俺は上を向いていた。
気持ち良さげに上空を滑っているアーシェを見ていると、自分もあんな風に空に浮かびたいと言う想いが改めて強まる。
・・・うん、頑張ろっと。
俺も一刻も早く、あんな風に優雅に飛びたい。