153 星暦552年 青の月 4日 飛ぶ?(2)
空気を滑るとしたら、薄い膜のような物で出来るだけ風を受けるようにする必要があるだろう。
一番効率的かつ安定した形が分かったらそれに『浮遊』の効力のある術回路を張り付けていけば人間の体重がかかってもある程度の滞空時間を稼げる可能性は高い。
とりあえず、色んな形を針金で作り、それに薄い絹を張って屋根の上から落としてみることにした。
アレクの主張で1回ではなく10回落とし、どの形がどれだけ飛んだかを綿密に記録を取っていく。
丸と四角は全然だめだった。回転をつければそれなりに空気に乗るが、そのまままっすぐ押し出すと直ぐに水平から垂直に角度が変わってしまい、落下する。
流石に人間が乗せた物を回転させる訳にも行かないしなぁ。人間の重みをつけて回すのも大変だし。
色々試してみたところ、三角形は継続的に悪くない結果が出た。
「じゃあ、三角形の変形版を色々考えてみよう」
シャルロが張り切って提案した。流石、ケレナ嬢のリクエストとあってやる気満々だねぇ。
商業的に成功しなかったら収入ゼロなんだけど、張り切っているシャルロを見るとそんな野暮なことも言えない。
ま、俺たちも空を飛びたいしね。精霊に頼んで飛ぶと言うのは何度か練習を繰り返すうちに最初の時ほどは酷く無くなったものの、やはり人間の感性にはちょっと厳しい動きが多くってあまり『飛ぶ』ことを楽しめない。
ここでのんびり空を楽しめる魔具が作れたらそれはそれで嬉しいな。
「同じ生地の面積で、どんな形が一番いいか、色々考えないとね。大きな三角がいいのか、三角に四角を継ぎ足したのがいいのか、大きな三角でもその角度がどのくらいいいのかとか」
凝り性のアレクが細かいことを言いだした。
そりゃあ、効率よく滞空時間を長引かせる為には魔術だけでなく、道具の形そのものも重要だろう。
だけど。
折角だから飛んでみたい!!
・・・とは言っても、考えてみたらこの針金と絹を合わせた形に人間の体重をかけたら間違いなく針金が曲がって形が崩れるな。
「アレクとシャルロでそっちを考えておいて、俺は出来るだけ軽くて強い骨組みを工夫しておくというのはどうだ?針金を人間を支えられるだけ太くしたら重くてしょうがない」
幸い小さいながらも鍛冶場の整備も先日終わったところだし。
実はまだ殆ど使っていないから、思う存分仕事に使えるなんて一石二鳥だ。
「確かにね。じゃあ、そちらを任せたよ」
◆◆◆
普通の住宅街に鍛冶場を作るのは難しい。
音が煩いというのもあるが、何よりも四六時中炭を燃やしていることが嫌がられるのだ。
また、ある程度の火力を得ることができる炉となるとかなりのサイズになる。
そこで俺はちょっとした工夫をすることにした。
アスカに火系の幻獣で俺が買い与えることが出来る程度の物を対価に手伝ってくれる存在はいないか、聞いてみたのだ。
意外と幻獣たちは暇だったらしく、そこそこの数のアスカの友達が立候補してくれた。
今日来ているのは火蜥蜴のサラ君。
「よ、元気?」
小さな炉の中で炭を食べて発火しているサラ君に声をかける。
火系の幻獣というのは炎の中が一番心地よいらしい。
だが、流石に活火山の中などは幼体には熱すぎる為、成長するまでは彼らは活火山の傍で適度な炎を楽しんでいるのだそうだ。
だが火山の傍というのはある意味殺風景でやることも少ない。
また季節によっては外気の寒さとマグマの熱さとの調整が中々難しいとか。
この小さな炉は熱を良い具合に中に閉じ込めてくれるので、『最高!』ということらしい。
しかも好物の炭まで貰えるのでサラ君はご機嫌だ。
時々気が向いたらアスカと出かけて近辺の観光に行っているようだし。
『元気だそうだ』
まだ幼い為に人語が話せないサラ君の返事をアスカが翻訳してくれた。
う~む。
俺としては挨拶だったから、もう少し違った返事を期待していたんだが・・・このノリの悪さって幻獣特有のものなのか、それともアスカの翻訳が悪いのか、どっちなんだろ?
今度、アレクのラフェーンにでも聞いてみるかなぁ。
中を空洞にした棒って丸い方が三角とか四角よりも強度があるんでしょうかね?
ううむ・・・。
どなたかご存じな方がいたら、教えてください。