152 星暦552年 青の月 3日 飛ぶ?
「空を飛びたいわ!」
ケレナが力強く宣言した。
紫の月の騒動の後、休養を兼ねてラズバリー伯爵令嬢は幼馴染のシャルロに会いに俺たちの家へ頻繁に遊びに来るようになった。
パディン夫人のケーキとお茶を楽しみ、妖精王やユニコーンや土竜と戯れ。
悪魔に憑かれた後遺症(?)も無く人生を謳歌している。
色々な噂が流れていた為、社交界にはあまり顔を出さなくなったようだが本人はあまり気にしていないようだ。
シャルロを振り回している姿は中々見ていて微笑ましい。
今まで、天然君のシャルロは人を振り回すことはあってもあまり振り回される姿は見たこと無かったからなぁ。
とは言っても、前回の事件でシャルロも少し少年から脱皮し始めたようで、多少寂しい気もするが。
そんなケレナが、お茶を楽しんでいる俺たちに今日は要求を突き付けてきたのだ。
「空?ペガサスでも召喚して欲しいの?」
シャルロが首をかしげながら尋ねる。
「あら、そんなことも出来るの?是非今度召喚して頂戴。
だけど、それよりも魔具でいつでも飛べる道具を作って欲しいのよ。あなた達、色んな魔具を新しく開発しているんでしょ?
空飛ぶ道具も開発して!」
堂々と請求するケレナ。
おい。
あんた、その開発費用を払ってくれるんかい。
まあ本当にそんな道具が作れたら、暇な貴族や金持ち商人層へそれなりに売れるだろうが。
それに考えてみたら、ラズバリー伯爵家なら1~2月かそこらの俺たちの研究費ぐらいお小遣いでだせるかもな。貴族のドレスとかって目が飛び出るぐらい高いらしいから、服を1着作るのを止めれば費用を捻り出せるのかも。
「学院でウィルが精霊に頼み事した時は、空飛んでいたよね」
シャルロが思いだして呟いた。
「だが、あの振り回され方は、怖かっただろう。特殊な人間以外は好んでああいう空の飛び方をしたいとも思えないな」
苦笑しながらアレクが反論する。
「まあ、空に上がって滞空するだけならもうちょっと大人しく出来るだろうが・・・精霊への頼みごとって言うのは魔具で出来る話じゃあないだろ」
そして駄目だしは、俺。
ケレナが空に飛びたいと言うだけなら、ここで俺たちが精霊に頼みごとをするという形で簡単な何かを作れるだろう。
魔具で・・・となると厳しいな。
精霊への強制力が無いタイプの道具で空を飛んだ場合、下手したら空高くいる時に突然精霊が気まぐれを起こして離れたりしたら墜落死だ。かといって、強制力のあるような魔具など作りたくない。
第一、精霊を強制してしばりつけるような術は禁忌だ。
下手に強制力のある魔具が暴走したりした場合、自然のバランスが崩れたりしかねない。人間の命や悪魔を使うような禁忌ほどの個人的野心に対する使いやすさは無いものの、精霊を強制するような術や魔具が失敗した時の被害はスケールが大きく、他の禁忌と同じく街を一つ滅ぼしかねないらしい。
「嵐が来ると、家や馬小屋の屋根が飛んだりするじゃない。あんな感じに人も飛べない?」
ケレナが提案した。
うう~む。
一時的に風を起こす魔具を作ることは出来るが・・・。
「それって、ケレナが空を飛ぶたびに周りの家や植木鉢に暴風で被害を及ぼすことになるんだよ?」
シャルロが指摘する。
「でも、鷹とかが空を飛んでいる時、優雅に空気の中を滑っているようじゃない。
あれってそんなに風の力が必要とは思えないけど」
ケレナが主張する。
「成程、風に乗るのか。何らかの形で上に上がる手段があれば、後は気流に乗って風の中を滑ることは出来るかもしれないな。だが、そうなると移動はかなりの部分が風任せになるぞ?」
アレクがお茶を手に取りながら尋ねた。
「別に、空を飛んで移動することが目的じゃないもの。移動するんだったら転移門を使えば良いだけの話でしょ?私は飛びたいのよ!だから風任せでも構わないわ」
まあねぇ。
気持ちは分かる。俺も空を飛びたいし。
他の2人も『空を飛ぶ』と言うことに心を動かされているようだ。
幸い、一昨日ちょっとした開発(ペットの迷子防止首輪)も終わったところで、少し暇がある。
研究してみるか。
ハンググライダーに挑戦することにしました。
最初は気球にしようかと思ったんですが、空気を熱すれば浮くというコンセプトをどう思いつかせれば良いのか分からなかったので『空をゆっくり滑り下りてくる』という道具にしようと思いました。
・・・上昇気流とは何かを研究している間に熱気球へたどり着いてもいいかな?とも思っていますが。