149 星暦552年 紫の月 22日 魔術院当番(6)
まだ第3者の視点続いてます。
「その盗まれたと言われているアクセサリーを思い浮かべて」
ウィルがケイトに命じた。
「人の頭に思い浮かべた映像を写し取る魔術を使うから、そのアクセサリーの詳細を出来るだけ鮮明に思い出す努力をして」
言われたとおりに、集中する。
途中、何か呪文を唱えながらウィルが額に触っていたが、気にせずにひたすら無くなったと言われたネックレスを思い浮かべた。
大きめのエメラルドを小ぶりなダイヤと真珠で囲んで豪華な逸品としていた。
沢山あるアクセサリーの中でも、これだったら無くなったら気がつくだろう。
だが、こんな代物自分がどう売りさばけると言うのだ。
盗もうなんて一度も思ったことは無かったが、その美しさには憧れていたので奥さまがつけている時には良く注意して見ていたものだ。
「よし、これでいいや。目を開けて良いよ」
目を開けたケイトの前に、小さな鏡があった。
何故かその中に無くなったネックレスが映っている。
「・・・え??」
思わず振り返って後ろを確認したが、どこにもネックレスは無い。
「ちょっとした魔術さ。数日したら薄れてしまうけど、君の精神から読みとった映像を具現化する為に鏡に写した訳」
どうと言うことない・・・とでも言いたげに肩をすくめながらウィルが立ち上がり、鏡をポケットにしまった。
「今までにも似たようなケースがあったんだろ?その時に無くなったアクセサリーを憶えている人と話したい」
◆◆◆
「とりあえず、ここに隠れていてくれ。誰が何を言いに来ても、絶対にここから出るな。
魔術師が君の手伝いをしているという話が君の雇用主もしくは娼館の方に流れていたら、下手にことが大きくなる前に君の口を封じようとする可能性は高いんだ。死にたくなかったら、絶対にこの部屋から出ないでくれ」
屋敷の昔からいる中年のメイドや、既に辞めたメイドのところを回って今までにも『盗まれた』と言われたアクセサリーの話を半日かけて聞いて回った。
その後に連れて来られたのが、この宿だった。
それなりに良い地域の宿とは言え、どこにでもあるような、宿。
知り合いもいないここに一人で隠れていろと言われても・・・それなりに辛い。
「母が心配していると思うのですが・・・ちょっと人をやってはいけませんか?」
不安そうに尋ねたケイトを一瞬心配そうに見つめてから、魔術師が立ち上がった。
「とりあえず、ここのところの心労で眠れていなかったんだろ?少し昼寝をしていたらどうだい?」
とん、とウィルの指が額に触れた。
「そうですね・・・。ちょっと眠いかも・・・」
突然襲ってきた睡魔に流されるように瞼が落ちてきた。
意識を失った体をベッドに横に置き、更に眠りの術を深める。
解呪しなければ2日は目覚めないぐらいしっかり眠っているのを確かめた後に魔術師は部屋を出た。
「大人しく寝ていてくれ。変に出歩かれて捕まっても困るんでね」
◆◆◆
「こんなアクセサリーを過去3年間の間に見てないかい?あんたの所じゃなくって噂で聞いただけでもいいんだ」
若い男がガラスに映ったアクセサリーの姿を店主に見せた。
「なんだね、こりゃあ」
盗品・・・もしくは出所がはっきりしない品物を扱う店は、それなりに多い。
だが、上流階級の夫人が売りに来ても身ぐるみ剥がれないような地域にある店となると数はそれなりに限られている。
ここはそんな店の一つだった。
「とあるお金持ちの老婦人が、どうも嫁が家宝のアクセサリーを何点かお小遣い用に売っぱらっているんじゃないかと疑っていてね。ちょっと調べてくれないかと頼まれたんだ」
ウィルが答える。
「ふ~む。中々良い物だな。だが、うちでは見たことは無いね。噂になる程の代物でもないから、ガラバかフォーランのところでも聞いてみるといいんじゃないかね」
鏡に映った映像を興味深げに見ていた老店主は肩をすくめて答えた。
「そうか。じゃましたな」
少しばかりの心付けを残して、ウィルは店を出た。
ガラバもフォーランも、他の5軒も回ったがどこも『無くなった』はずのアクセサリーを見ていない。
もしも本当にメイドが盗んでいたのだったら、仕事が無くなって娼館に行くことになる前に売っていただろう。
濡れ衣だった場合、屋敷の夫人が身につけることが出来なくなった時点で適当に売り払っているかと思ったのだが、それもないようだ。
「・・・と言うことは、あの屋敷のどこかにまだ隠してあると言うことか」
次回で解決かな?