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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後1年目
144/1292

144 星暦552年 紫の月 21日 魔術院当番

主人公でも、その友人達でもない完全な第3者視点からの話です。

――魔術院受付にて――


>>サイド ??


「おはようございます。当番になったと連絡を受けたんですが」

若い男が受付に来た。


魔術師にはそのレベルにあったローブが決められている。

だからそのローブを着ていれば魔術師であると一目瞭然であるが、別に着ることは強制されていない。また、魔力増幅やコントロールに役立つ杖を持ち歩く魔術師も多いが、これも必ず持ち運ぶと言う訳ではない。


魔術師であることにプライドを持っている人間は大抵そのどちらかを携帯しているのだが、拘りの無い人間の場合・・・一般客と間違われることになる。


にっこりと『お客様仕様』の頬笑みで若い男を迎えたエレナも間違えた一人だった。


「なんだ、当番なの。受付じゃなくって、上の相談課の方に言ってちょうだい」

一気に頬笑みがそげ落ちた。


一瞬、その落差に男の目が笑ったように見えたが、その男は何も言わずに上に上がって行った。


「誰だったの?」

遅れて受付に来たアリソンがエレナに尋ねる。

「当番ですって。見たことないから新卒なんでしょうね」


『魔術を使う』魔術師は、必ず魔術院に登録することを求められる。

魔術を使うというある意味法を超えかねない行為を業界団体で自主規制するための組織が魔術院だ。

だから魔術院に属さずに魔術を使うことは違法とされている。

魔術院に属することを断固として拒否する場合は魔術を封印する処置を受けることになる。


とは言っても、そのような封印はかなり居心地が悪いし、魔術院の規制もかなり緩いモノなので付属を断固として拒否する人間はあまりいない。

魔術院の規制とは、基本的に禁呪をするな、国の法を侵すなと言った程度のもの。普通にそこら辺に住む人間が守らねばならない常識範囲内だ。

ただ、もしもそのような規制を守らぬものがいた場合には魔術院がその人間を拘束・処罰する必要がある。そう言った組織作りにかかる費用を負担する為に魔術師は年会費を払うか、『当番』として年に10日ほど魔術院で無料奉仕をすることが求められる。


ある程度、金銭的余裕のある魔術師は年会費を払うが、若い成り立ての魔術師は無料奉仕を選ぶことが多い。

金銭的な理由もあるし、また魔術院のなかでのコネ作りにも役立つからだ。


受付の人間にとっても、毎年現れるそういった新しい魔術師は好奇心の対象なのだが・・・機嫌の悪いエレナは無駄話をするつもりは無かった。

つい最近、二股が発覚した彼氏と別れたばかりで、若い男は全部憎い!という精神状態である。

はっきり言って、朝から笑顔を無駄に見せる羽目になっただけでも腹立たしい。



◆◆◆



「すいません、当番の連絡が来たんですが」

『相談課』と書かれた扉のところで立ち止まり、若い魔術師が部屋の中に声をかけた。


「ああ、いらっしゃい。ウィル・ダントール君ね。待っていたわ」

扉の傍に座っていた女性魔術師がたちあがって迎える。

「私はセイラ・アシュフォード。よろしくね」


相談課の仕事は、魔術院へ依頼に来た一般人への最初の対応だ。

魔術院では一般社会への魔術師と言う存在のアピールと軋轢回避の為にお手頃な費用で簡単な依頼を受ける。ただし、これは基本的にその近辺での話だけに限るので、その地域を離れた話の場合は冒険ギルドへ行くことを勧めることになる。

もっとも、禁呪に係わっているかもしれないと疑われる場合は調査に関しては無料で魔術院が請け負い、実際に禁呪関係であった場合は無料で魔術院が対応するが。

本当に禁呪であった場合は情報料として話を持ってきた人間に報酬を出しているほどだ。


近辺地域での依頼と言っても、他の人間のプライバシーや権利・財産を侵害するような依頼は当然受けられない。相談課はそう言った依頼を受け付けるかの判断、提供された情報の処理、受け付けた依頼の執行もしくは委託を行っている。


「基本的に、そう言った判断をするのが正規職員である私やガラスの仕事。簡単な依頼の場合それを執行するのが当番で来ている魔術師の仕事ね。つまり、これから10日間は君な訳」

最近売り出されたティーバッグでお茶を淹れながらセイラがウィルに説明した。


「どの位の頻度で依頼って来るんですか?」

注がれたお茶を味わいながら新米魔術師が尋ねる。


「そうね、平均したら簡単なのが1日3件ぐらいかしら。勿論、禁呪にかかわったりするような情報はガセを合わせても1月に一度あったら多いぐらいだけど」

自分用に注いだお茶の香りを楽しみながらセイラは答えた。

うん、悪くない。

今までは茶葉を捨てるのが面倒だったのでついつい出がらしになるまでポットでお茶を淹れていたのだが、このティーバッグが出たお陰で新鮮な茶葉を毎回楽しめるようになった。


「これって最近シェフィート商会から売りに出されたティーバッグですよね。経費で買っているんですか?」

お茶を楽しんでいたらウィルが声をかけてきた。


「そう、お茶は重要だからね。売りに出たって話が流れてきたらすぐに総務課に言って買わせたの」

特級魔術師のアイシャルヌ・ハートネットをはじめ、魔術師にはお茶好きが多い。

ティーバッグの売り上げにもかなり貢献しているだろう。


「そう言えば、湯沸かし器と一緒に売っている一ランク上のティーバッグを試してみたことあります?

形が三角錐になっていて、お茶の香りがより美味しく楽しめると言う話ですよ」


ほう。

魔術師にとって湯沸かし器は基本的に必要のない魔具だ。

だからそれと一緒に売りだしているというティーバッグの話は聞いていなかったが・・・。

より美味しく楽しめるというのなら、この一ランク上のティーバッグというのも試してみるべきかもしれない。

さりげなく自分のティーバッグの売り上げアップに努めるちゃっかりした主人公でした。


見た目地味で平凡なウィル君の当番生活の話をしばしやってみようかと思っています。


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