1410 星暦559年 赤の月 19日 消火用魔具(12)
ダルム商会の積み直し用の土地に来たら、木箱が文字通り山になる程積んであった。
俺が上に手を伸ばしても届かないぐらい積んであるぞ??
どれだけこの実験に期待しているんだか。
「取り敢えず、普通の木箱と底が抜けた木箱を使って、蓋を半分に割ったのをちょっとずらして固定して扉がある2部屋って感じにして、奥の方の木箱で火を点けようぜ」
手始めにということでシャルロとアレクに木箱を使う形を提案した。
「こちら側の入り口から中が見えるようにガラス板か何かで開口部分を塞いでやってみようか。
開けっ放しだと空気の流れが実際の家の中での火事の場合と違う形になりそうだ」
アレクが指摘する。
確かに、火というのは空気の動きが大きければ大きいほど勢いよく燃え上がる。
そして火が燃え上がる時は熱で空気が動くお陰で、窓が開いているとかドアが開いている建物は火の勢いが強くなる。
「ガラスだと熱で割れちゃうかもだし、手配するの面倒そうだから防風結界で良くない?」
シャルロが指摘する。
確かに?
俺らがやるんだったらその方が楽そうだな。
「じゃあ、順番に結界を張るか。
取り敢えず、4つほどそんな感じに木箱を組み立ててみようぜ」
結界は実験を始める直前で構わないが、木箱を一々実験をやっている最中に組み立てていたらなんか集中力が切れそうだ。
という事で、木箱を適当に組み合わせて、釘で固定して実験室モドキを4つ作り上げた。扉もどき部分は釘一本だけで留めて、両手を使えば扉部分を動かせる様にした。じゃないと火をつけられないからね。
ついでに古い壁紙も壁部分に留めてある。
この方が現実的っぽいし早く燃え広がるかもだから実験が早く進むと期待している。
と言うか。
「これってさぁ、壁紙がある方が早く火が広がるとしたら、職人街の家には壁紙なんて張らない方が良いって話を流すべきかな?」
元々、下町は壁紙なんて張る余裕がある家の方が少ない。
貴族や豪商は壁紙無しなんてありえないし、どうせそれなりに防火の仕組みがある。火事になっても全財産が燃え尽きるという事はないだろうし。
職人街辺りが一番火事による損失が大きく、それでも壁紙を張る余裕がありそうなんだよなぁ。
「それこそ一生起きないかも知れない火事を用心して殺風景な部屋に住むか否か、中々悩ましいな」
アレクが難しい顔をした。
「漆喰で壁を平らに塗って塗料を塗って奇麗な模様でもつければいいんじゃない?
漆喰の方が板がむき出しになっているよりも燃えにきだろうし」
シャルロが提案した。
確かに?
漆喰の方が圧倒的に高くつくが、火事防止の手段としては悪くないかも?
「ふむ。
実際に燃える速度がどの程度変わるか確認して、漆喰業者に室内の壁へ使う用に宣伝する際の売り文句に使えるかも?とそれとなく伝えてみるか」
アレクが言った。
なるほど。
直接止めた方が良いと話を広めるのではなく、壁紙の代替品として儲かる業者が自発的に話を広めるように『善意の情報提供』と言う形にするのか。
確かに、それで話が広がれば俺たちが恨まれなくて済むな。
壁紙だって燃えにくい素材で作るのは可能だろうし。壁紙業者と漆喰業者とでお互いを出し抜こうと頑張って貰えばそれが一番良いだろう。
という事で、もう一つ木箱を組み立て、こちらは壁紙無しにしてみた。
「じゃあ、こちらを二つ、一緒に燃やしてみよう。
試作品は……錫合金と煙探知のとそれぞれ奥の『部屋』と手前の『部屋』に付けて、どれがどのタイミングで鳴り始めるか確認しよう」
最初の実験では、まずは部屋の真ん中で火を点けて、奥の壁の天井近く、隣室への扉の手前、隣室側の火をつける部屋の扉の傍、そしてこっちの出口手前という4か所に探知機を設置する。
これで設置する場所で反応する時間の違いを確認出来るといいのだが。
煙用と錫合金で反応がどう違うのかも確認したいし。
火つけ用の実験に色々とゴミや木材を入れた箱を持ってきてあるので、それを真ん中に置いて火をつける。
「じゃあ、いくよ~?」
「おう」
シャルロが隣の『部屋』から声を掛けたので、俺も同じタイミングで火を点けて、急いで木箱から這って出る。
出てきたらすぐさまアレクが防風結界を二つ展開してくれた。
さて。
どんなふうに燃えて、探知機が反応するかな?
山とある木箱は期待の現れw




