141 星暦552年 紫の月 4日 後始末
ウィルの視点に戻りました。
大悪魔を祓い、事件の概要を聞いた翌朝。
学院長と俺はまた長の下へ来ていた。
長の友人が実は生きていたという報告と・・・暗殺ギルドの副長の所在を聞き出すためだ。
大悪魔がこの次元から追い出されたことでその部下である下級悪魔もついでに締め出しを食らってくれないかと密かに期待していたのだが、神殿からの伝言によると4体の下級悪魔はまだ現存とのこと。
どうやら、大悪魔が手を貸したとは言っても、正式に生贄を殺して呼び出した悪魔はそう簡単に消えてはくれないらしい。
「4人の被害者は順番に祓っていくのですか?」
長がお茶を注ぎながら尋ねてきた。
流石に長も朝早くからワインを飲むつもりは無かったらしい。
もしかしたら後で闇の神殿まで友に会いに行くつもりなのかもしれないし。あまり酒臭いのは顰蹙だろう。
「ああ。下手に姿を隠されたりしたら困るからな。今日中に全部祓う」
一口お茶を味わってから学院長が答えた。
あの表情からすると、あまり味は気に入らなかったのかな?
まあ、長はお茶よりもワインの人だからねぇ。
徹底したお茶派の学院長が満足いくものを淹れられる方が不思議でしょ。
「なるほど。この時間に私に会いに来たということは、最初に行くのは暗殺ギルドというわけですか。首謀者が死んだのに計画していた暗殺を実行されたりしても困りますから、確かに急いだ方が良いでしょうね。
・・・下級悪魔の方は自分のボスの大悪魔が既に帰還させられたことを知っているのでしょうかね?」
学院長は肩をすくめた。
「さあな。悪魔の上下関係のリンクの強さはあまり知られていない。
感覚的に繋がっていないのだったら、敵対する勢力がいると知られる前に追い出してしまいたい。
ま、知られていて用心していたところで祓うという行動に変わりはないんだが」
「それはそうでしょうね。
暗殺ギルドの副長ですが・・・。彼は下町の娼館『黒い蝶』に昨晩泊まったとのことです。まだそこにいるでしょう」
「分かるか?」
俺の方を向いて聞いた学院長に頷いてみせる。
流石の学院長でも下町の娼館の場所までは分からないらしい。
・・・ちょっと安心したかも。
独身の学院長が何をしようと彼の自由だが、何かと暗い噂の流れる『黒い蝶』に足を運ぶような人間でないというのはいいことだ。
「では、礼を言う」
長に軽く頷いて、学院長が立ち上がった。
「いえいえ。こちらこそお礼を幾ら言っても足りないぐらいですよ。
私個人に対する貸し一つと数えておいて下さい」
長がにこやかに答えた。
・・・特級魔術師が盗賊ギルドの長に何か頼みごとをするような状況になるのは想像しにくいけど。
ま、思ったより王都には色んな陰謀があるから、情報源として盗賊ギルドの長と伝があるのはいいことだろう。
◆◆◆
「最後はラズバリー伯爵家だな」
呆然と座り込んだままの副団長の部屋から出て、学院長は深く息を吐き出して言った。
下級悪魔の祓いは思っていたよりも簡単だった。
青についていたのってキャラが凄く下っ端っぽかったから弱いと思っていたのだが、どうやらあれでも『第3の部下』と自称するだけあって極端には弱くなかったのかもしれない。
暗殺ギルドの副長とアレサナ商会の長男、第2騎士団の副団長の悪魔たちは拍子抜けするほどあっさり祓えた。
考えてみたら青の場合は尋問して情報を得る必要があったんだよな。
だからあれだけ時間がかかったのかもしれない。
他の3人の被害者は特に欲しい情報も無かったので、力技で清早の水で弱らせ、学院長の術でこの次元から追い出しを食らわせた。
はっきり言って、被害者を物理的に探し出すことの方が祓うのよりも時間がかかったぐらいだ。
ま、それでも13の刻には男性陣の被害者への対応は全て終わっていた。
残るは皇太子妃候補のケレナ・ラズバリー嬢。
考えてみたら、貴族の娘さんを問答無用で水浸しにしても大丈夫なんだろうか・・・。
ラズバリー伯爵家の王都の屋敷を訪れた俺たちは、学院長の特級魔術師のローブがモノを言ったのか、あっさり応接間に通され、ラズバリー伯爵夫人とケレナ・ラズバリーに会えることになった。
「・・・シャルロ??!!」
何故かそこにはシャルロと、悪魔に憑かれていないケレナ嬢がいたけど。
・・・あれ??
ちょっと短めですが区切りがいいんで切ります。
明日でこのトピックも終わりかな?