1406 星暦559年 赤の月 15日 消火用魔具(8)
「取り敢えず、小屋そのものはまだ燃やしたくはないから、古いストーブに生乾きな枝を突っ込んで燃やして煙を出させて、扉の上に試作品を設置してみようか」
アレクが実験小屋に辿り着く前に物置小屋に足を向けた。
「と言うか、だったら俺の鍛冶場でやればいいんじゃないか?
あっちの方が確実にうっかり火が広がらない仕組みになっている」
炉で意図的に煙を出すような劣悪な素材を燃やしたら、後でしっかり掃除しなきゃいけなくなるだろうけど。
火蜥蜴のサラ君が居るようだったら、煙を出して実験をしたいので、一気に燃やさないでくれと頼まないといけないな。
「そうだね~。
鍛冶場がちょっと煙くなるかもだけど、あそこの方が換気機能もしっかりしているし。
実験小屋を燃やさずに木箱を使うんだったら、あそこが煙くならない方がいいよね」
シャルロが頷き、俺の鍛冶場の方へ方向転換した。
「よ、元気?
ちょっと実験したいんで煙を沢山出す枝でも燃やしたいんだけど、良いかな?」
炉の中でのんびり炭を食べていた火蜥蜴のサラ君に声を掛ける。
最近はあまり時間がなくて剣を作ったりって言うのはしてないんだよなぁ。
偶にナイフを作ったり、それに色々機能を付けた魔ナイフ(魔短剣?)に出来ないか時折実験しているけど。
お陰でサラ君も飽きたのか眠っていることも多いのだが、居心地のいい炉と言うのはそれなりに貴重らしい上に幻獣の時間感覚というのは人間とは違うから、取り敢えずまだここに居ついてくれている。
しゅたっとサラ君が手をあげて、俺の要望に合意してくれた。
多分。
「じゃあ、取り敢えず換気と空気清浄の魔具は止めて、扉の上の辺に試作品を取り付けようぜ。
ちなみに、その試作品の警報音って違う音なのか?」
どちらが先に鳴ったのか、外から確認できる方がいい。
一度扉を開けてしまったら煙が逃げるから、また警報が鳴る濃度まで煙が濃くなるのに時間が掛るだろう。
幾ら炎にまかれる危険がないとしても、煙い部屋の中に残ってテスト結果を見張って確認する羽目にはなりたくないぞ。
「大丈夫。
シャルロのはシャルロの声で『実験成功!』って音が鳴るし、私のは『テスト中』と私の声が響くようにしてある」
アレクが言った。
普通に警報音を使った俺と違って、それなりに工夫しているようだ。
という事で二人が試作品を設置している間に、俺は適当に庭の枝を少し切って、生乾きな薪と一緒に持ち込んで炉に突っ込んだ。
「これを適当に燃やして、煙が出るようにしてくれるか?
変な音が鳴ると思うが、気にしないでくれ」
二人が準備が終わったところで、サラ君に頼む。
サラ君がしゅぱっと枝の上に飛び乗ったら、途端に煙が葉から噴き出し始めた。
火事とはちょっと違う燃え方をしてそうな気もするが、取り敢えず煙が出ているんだから、良いよな?
「よし、外で待とう!」
慌てて鍛冶場を出る。
普段だって炭を燃やした際にある程度の煙はでるんだが、それなりに良い炭を使っているから煙の量って必要最低限だ。それに換気や空気清浄の魔具も使っているから、あまり鍛冶場が煙くなったりしないし。
意図的にやると、こうも煙くなるのか。
外に出て、採光用の窓から覗き込んだら鍛冶場の中が煙で白くなっていた。
やがて扉の周辺からも煙が洩れ出てきはじめた。
「鳴らないな」
目で見える程度には煙が出てきているんだが。
「考えてみたら、枝じゃなくて屋敷にあるようなカーテンとか壁紙とか、もしくは家具の一部なんかを燃やしてみるべきだったかも」
アレクがちょっと難しい顔をしながら言った。
あ~。
そういえば、壁紙なんかは虫やカビ防止用に色々塗ってあることがあるし、カーテンも煌きを付ける為に金属の糸で刺繍している場合もあるから、燃えた時の煙の色とかが違うかも?
そんなことを考えている間に、アレクの声が聞こえてきた。
『テスト中。テスト中』
お。
「無事、煙に反応したな」
この状態で中に居る人間がどのくらい苦しい思いをするのか、もう一度後で実験した方が良いかもだけど。
「だね~。
でも、僕が試したのはダメみたい?」
ちょっと残念そうにシャルロが言った。
「まあ、もう少し待ってみよう。
まだまだ作らなきゃいけない試作品はあるし、実験小屋を燃やすんじゃなくてウィルの鍛冶場の炉を使いなら何度でも実験できるから、もっと時間を掛けるとか、燃やすものを変えた時にどう反応が変化するかも確かめられる」
アレクがシャルロを慰めた。
暫く待っていたが、結局枝が燃え尽きたとサラ君が清早経由で知らせてくれるまで、シャルロの試作品からは音が鳴らなかった。
どうやらあの魔術回路にとって煙は感知できるほどの濃度ではないらしい。
休息日はシェイラに会いに行っていますが、平日で気分転換とか仕事が早く終わった時に、ちょっとはカンカン鍛治室を使っていますw




