1403 星暦559年 赤の月 15日 消火用魔具(5)
「そう言えばさ、日常の温度では絶対に溶けないけど火事が起きた時の温度上昇で溶ける素材ってないのかな?
膨張するって言うのでもいいけど。
魔術回路で探知機能を作り上げるよりも、物理的な反応をスイッチにして警報が鳴るとか魔術回路が起動するって形にした方が安上がりになるんじゃない?」
昨日魔術院で色々と入手してきた特許情報を手に、試作品を作り始めようとしたところでシャルロが聞いてきた。
確かに?
「膨らむ物は知らないが、考えてみたら水道管や装飾品の接続に使う合金で、金属としては低い温度で溶けて簡単に加工手出来る物があるってスタルノから聞いたことがあるな」
俺は魔剣とか剣やナイフを作るのが楽しいから装飾品とかは興味はないが、家で水漏れがあった時なんかに水道管の修理に便利だぞと教わったのだ。
「温度で膨張するのは液体が気体になる時が一番大きいと思う。だがそれだと下手をすると時間経過で液体が乾燥してしまうかもだから、その低い温度で溶ける金属の方がいいかも知れない」
アレクが口を挟む。
「じゃあ錫の合金で試してみるか。
扉付近や壁・天井や床に埋め込んで警報だけ鳴るようにするか?
いや、警報を鳴らして、その周囲の温度を下げて水が沸騰する温度以上にさせないような魔術回路と併用させるか」
うっかり熱いお茶を零しても大丈夫な温度に設定した方が良いだろう。
部屋全体を一気に冷やす仕組みではなく、実際に熱を感知したところを冷やす形にしたら魔石の使用も節約できるかも?
警報機が鳴るので、炎が上がってきているならそこを人間が消火してもいいし。
「でもまあ、煙の探知もした方が良いと思うよ?
火事の時って熱くなる前に煙に巻かれて意識を失う事もあるらしいし」
シャルロが指摘した。
下町で火事が起きた場合、建物自体が薄い木材で出来ていることが多いのであっという間に全体が燃えて煙も炎も同じぐらいの速度で広がるが、貴族の館だと燃えるのって絨毯とかカーテンとか、柱や床板だけで外壁とか頑丈な壁は石材やレンガで出来ているから燃え移らないのだろう。
そうなると煙の方が先に流れてきて、炎が燃え広がって来るのにもう少し時間が掛るのかな?
そう考えると、火事の広がり方も金持ちと貧乏人とでは違うんだなぁ。
まあ、貧乏人が火事の警報器や消火器の魔具を買える可能性は限りなく低いのだ。
金持ち用に煙の流れも重視した作りにするのが正解なのだろう。
「そんじゃあ、侵入防止用の魔具で煙で魔力のラインが遮られたら警報が鳴るように出来るか、試してみるか」
先にそっちの試作品だな。
「煙だけでまだ熱くなっていないなら、冷却の魔具は起動しても意味ないかもだしな。
冷却の魔術回路はその錫の合金で物理的に熱を感知した時に起動させれば良さそうだ」
アレクが頷きながら侵入防止用の魔術回路の山へ手を伸ばした。
それなりに厳選したんだけど、それでも沢山あったんだよなぁ。
盗賊対策の魔具がこんなに人気があるとは知らなかったぜ。
俺が現役だった時は特に役に立つような防犯用の魔具なんて見た記憶はなかったが、あれは俺が魔力を視れたからなんだろう。
とは言え。
結局は人間の作る仕組みだからな。
高級な物は遅かれ早かれ、盗賊ギルドの連中に狙われたら盗まれていく。
金持ちの連中はお高い侵入防止用魔具があれば盗まれるのが防がれる回数が多いとか、時間を稼げるとか思っているのかな?
で、それを突破されるたびに更に新しい魔具を購入しようとするから次から次へと侵入防止用魔具が開発されているのかもね。
大抵は信頼できない家令や下僕をクビにして、もっと慎重で誠実な人間を雇い入れれば被害を防げることが多いんだけどな。
もしくは、高級品を持っていると自慢しないとか。
とは言え、宝石類なんかは貴族が自分たちの富と成功具合を自慢するための道具だから、買って大事にしまって誰にも見せないのでは意味がないのだろう。
そう考えると、高額な装飾品を作っている業界の連中ってウハウハだよな。
高いのを作って、見せびらかされて盗まれて。盗品として回ってきて怪しい装飾品の宝石を外し、細工を変えて再度売り出したらまた買われて盗まれてと、業界全体では金が良い具合に循環するんだから。
完璧な防犯用の魔具なんぞ作ったら、盗賊ギルドよりも先に装飾品職人のギルドに命を狙われそうだ。
……今回は消火用の魔具だし、前回のは美術品用だから、大丈夫……な筈。
そのうち古巣からお叱りの手紙が来たりw




