1398 星暦559年 赤の月 10日 魔力認証結界(26)
「へぇぇ、もう終わりそうなの?」
学院長への売り込み(とついでに売り出して問題ないかの確認)で特に目立った反論はなかったので、安心して今日はシェイラの所に遊びに来た。
もしも売り出しはヤバい!!なんて言われたら、チェルナ子爵の所からも回収しなくちゃならないか??と密かに心配していたのだが、魔術学院で使うのは度胸試しもどきな遊びに使われそうで迷惑だから要らんと言うだけで、販売に問題があるとは言われなかった。
まあ、勝手に設置場所を変えられないように、悪用された際にどこに売られた物か分かるよう、製造番号と購入者を紐づけした情報管理はしておけとは言われたが。
「おう。
なんか想定外に、試作品を搬入した先の貴族の家の人間が捕縛結界でぐるぐる巻きにされるのを楽しんでいたが……問題はないようだったぜ」
チェルナ子爵家の人間がぐるぐる巻きになるのを楽しみ過ぎて魔石の消費が想定以上に早かったが、ちゃんと交換に必要な状況になったら分かるように改造したし、魔石の費用はあっちもちだから問題はない、筈。
「ふ~ん。
どうせなら、仕事の最中にさぼってどこかに逃げようとしたら椅子に縛り付ける捕縛結界とかを作れない?」
シェイラが聞いてきた。
ツァレスが相変わらず書類仕事から逃げているのかな?
シェイラが全部やっちまえば早いだろうに。
だがそれでツァレスにやらない癖を付けちまうと、シェイラが一生あいつの子守り役になって次の発掘現場とかに移動できなくなるからってことで、多少は手伝っても残りはあいつにしっかりやらせているらしい。
お陰で手間暇は自分でやるのの倍以上だと時折愚痴っている。
「単に動けないように捕縛結界を設置するのは可能だが、席を立つのが誰かに呼ばれたからとか、トイレに行きたくなったからとか、違いが分からんからなぁ。
トイレに行く時用に抜け出す鍵を渡していたら、遊びに行く時も使っちまうだろ?」
一々、発掘班のトップがトイレに行くたびにシェイラを呼びつけなきゃいけないなんて、情けなさ過ぎるだろう。
「そうねぇ。
さぼる意思に反応して捕縛とか、電撃とかって出来ないの?」
溜め息を吐きながらシェイラが尋ねる。
「流石に人の意図に反応して作動を変える魔具っていうのは無理だな」
魔術師が術で人の記憶や意図をある程度読むことは可能だが、読み取った情報を判断するのはやはり人間じゃないと無理だからな。
記憶を読み取って映像として映し出す魔具は可能でも、それを解釈して捕縛するか否かを決定するような魔術回路は俺が知る限り、現時点では存在しない。
それこそ、ある意味洗脳系のヤバい呪具だったらさぼろうという意思を無くさせるかもしれないが。それはそれで、ヤバすぎるだろう。
「次はどうするつもりなの?」
町の中の散策している最中に目についた店の中を覗き込んだシェイラが尋ねてくる。
「まだ相談していないが、消火用の魔具を作るかも?
ただまあ、警報を鳴らすだけならまだしも、消火はそれなりに色々と問題があるから、上手くいくかは微妙かも」
それこそチェルナ子爵が家令とあの美術品の部屋の中を見ている時に何かがあって二人とも動けなくなり、火事になったとしたら。
子爵夫人と長男が家に居なかった場合、誰も部屋の中の人間を助けられなくなる可能性は残っている。
力技で魔石を枯渇させるのを中の人間が火事で煙や火に巻かれるより先に出来るかは、中々怖い時間との競争になりそうだからな。
「問題があるってどういう事?」
「水をぶちまけたら部屋の中の美術品とか書類が台無しになるかもだろ?
かと言って空気を抜いて火を消すって言うのは部屋の中にいる人間が窒息しかねないし。
砂でもぶっかけて火を消すって言うのもありかもだが、砂はそれなりに重いからな。
どこに置いておくかとか、それを燃えている場所へ的確に掛けられるかとか、色々と難しそうだろう?」
下町では所々の道の傍に砂を詰めた箱が積んであって、火事の時にはそれを掛けて消すという事も多い。
水と違って腐らないし、虫も湧かないからな。
ただまあ、あれはそれなりに重い。
天井なんかに敷き詰めたらそのうち天井が重さに負けて落ちてきたりしかねないから、難しい。
「確かにちょっとしたボヤだったのに部屋中に水をまかれたら、悲劇だわね」
シェイラが眉を顰めながら言った。
火事で死ぬのも悲劇だが、書類が台無しになるのも色々と大変だからなぁ。
魔具を使うのだ。
普通の手段で消火するのではなく、魔術師らしい方法で対処できないか、調べるべきだよな。
うん、消火系の魔具を作ることになったら、防火結界がどんなかんじに機能するのか一度確かめてみるのが良いかな?
二酸化炭素を吹き付けるタイプの消火器でも、酸欠状態で意識不明になって死者が出ることもあるらしいですからねぇ




