1396 星暦559年 赤の月 8日 魔力認証結界(24)
昨日一日かけて、改修した防犯用魔力認証結界の魔具の設置後の問題対処をチェルナ子爵邸で行い、大体問題がなさそうだとなった。
取り敢えず、今はもっと落ち着いたご老人とかで愛する美術品を守るための防犯用魔具を欲しがる人はいないかと、シャルロの親戚経由で探しているところだ。なので今すぐにやることはないから今日は特に予定もなく、久しぶりにのんびりと工房でお茶を飲んでいる。
「なんかこのぐるぐる巻きな捕縛結界が思った以上に人気だったな」
オモチャとして提供したくなるほど、大人までが一緒になって楽しんでいた。
まあ、あれはチェルナ子爵家の人達の人格と警備担当の使用人との関係性もあるんだろうけどね。
警備の使用人を奴隷の一歩手前扱いしている傲慢な貴族だったら、自分まで捕縛されて警備担当に解放されるなんて屈辱を我慢できないと感じるだろう。
「魔力認証の部分は防犯用の仕組みとしての中核部分だからあまり広めすぎるのは良くないと思うが、もっと単純に起動する仕組みの、ぐるぐる巻きになる捕縛結界を作れたらそれを売り出すのは悪くないかも?
こう、正規な鍵を持たずに扉を開いて入ったらぐるぐる巻きになるみたいな」
アレクがちょっと首を傾げながら提案する。
「鍵で開けるのと、ピッキングの道具で鍵を開けるのと、違いを認識させるのが難しいぞ?
まあ、鍵そのものに認証の仕組みを入れておいて、それを持っていないと捕縛されるって形にするならありかも知れないが」
ある意味、魔力認証に近いが、その場合は『鍵を持っている人間なら入れる』と言う形になるので、鍵を使う人の魔力を登録する必要は無い。
……ピッキングで鍵を開けて中に入ると捕縛結界に捕まるなんて、盗賊泣かせな仕組みになりそうだ。これからは何処かにお邪魔する事になった場合に、捕縛結界が無いかをしっかり確認してから中に入るようにしないと。
「それこそ、魔術学院の金庫とか職員室の扉にこれってあったらいいと思わない?」
シャルロが楽しそうに提案する。
「金庫はまだしも、職員室は日中は鍵をかけていないし、誰か役付きの教員が来て鍵を開けた後は解放されているんだから、設置するんだとしたら夜の間だけとか、休息日だけって感じに運用しないとダメだな。
しかも度胸試しというかぐるぐる巻きを体験するために生徒たちがガンガン意味もなく職員室に入り込もうとしそうだ」
確かに、金庫の中にしまってある試験問題とかその回答を盗もうとする人間はちょくちょく出てくるだろうし、捕縛する必要もあるだろうが。
昔の俺みたいに。
これって、他の誰かが開発して設置していたら、俺はちゃんと忍び込む前に気付けるのかな。
ちょっと心配だ。
「ぐるぐる巻きだったら電撃とか結界の魔力そのもので侵入者を拘束しようとするよりは少ない魔力で長時間相手を拘束できそうだから、夜中の間も警備員が巡回している訳ではない場所で使うには悪くないかもだな」
アレクがちょっと顎をさすりながら言った。
「まあ、真面目な防犯用としてはアレクがシェフィート商会とかシャルロが親戚とかに聞いて回るとして、俺は学院長にこんなのが欲しくないか、聞いてこようか?」
最近は学院長の顔もあまり見ていないしな。
まあ、去年の桃の月に保存用の魔具の研究をしている時にちょっと会っているが。
それこそ、呪器の研究をしている王立研究所なんかにこういう防犯用の魔具を設置するべきなのかもだな。
まあ、研究者ってぼんやりしているのが多いみたいだから、うっかり鍵を持たずに入ろうとしてぐるぐる巻きになるのが頻出しそうだが。
「そうだね~。
取り敢えず仕組みを説明して、学院長にこれの販売先とか広めちゃいけない技術があるかとか、提案があるか聞いてみておいたら後から慌てないで済むかも」
シャルロが頷いた。
そうだなぁ。
時々、俺たちが開発した魔具って販売しないでくれと王宮から言われちまうからなぁ。
これは大丈夫だと思うが、先に確認しておく方が良いだろう。
売るなと言われたら絶対に、その分の補償を貰うつもりだが。
これぞまさしく、盗賊ギルドの長に睨まれる発明品かも?




