1392 星暦559年 赤の月 1日 魔力認証結界(20)
「おお~~。
ここのパネルに触れないと、本当に扉を開けられないのだな!!」
色々と試しながらバタンバタンと何度も廊下側の扉から部屋側の扉を開けて出入りを繰り返しているチェルナ子爵が嬉しそうに声を掛けてきた。
「そのための魔具だからね~。
そろそろ他の人の魔力も登録した後に、登録なしの人を入れる練習もしてみたらどう?」
待ちくたびれて来たのか、シャルロが顧客用ではなく親戚に話しかける口調で提案した。
この部屋の呼び鈴は使用人の待機用の部屋に繋がっているらしいので、警備用の警報もそちらに繋がることになった。
と言っても、単に大きなベルをあちらに付けて呼び鈴とは別な音が鳴るようになっているだけだが。
チェルナ子爵と傍で控えていた家令はさっさと魔力登録をしたが、まだ子爵夫人と子供たちは登録していない。
「ちなみに、子供も他の人を呼び込めるようにする予定なんですか?
呼び込めないようにするつもりなら、子供自体も魔力登録をせずに子爵夫妻なり家令なりが部屋に入れてあげる形にした方が無難かもしれませんね」
アレクが指摘する。
そうなんだよなぁ。
ガキって判断が甘いから、明らかに怪しい親戚とか知り合いっぽい人間のいう事を聞いて部屋に招き入れたり、その際にどうやったら警備の方へ警報が鳴らないかを教えたりしかねない。
「そうだね、長男はそろそろ分別が付く年だから登録するが、次男以下は家令か私か妻に頼むようにさせる形にしよう。
子供が友人を招く場合は私か妻が見張っていないと相手の身分次第では問題になるかも知れないし」
チェルナ子爵がちょっと考えてから言った。
「ちなみに掃除要員は家令が招き入れる形にするので良いですか?」
ちょっと気になったので聞いておく。
人の出入りが少ないし、空気清浄用の魔具も使うしで、この部屋を毎日清掃する必要は無いだろうが、一々掃除のたびにメイドを家令が招き入れるのは面倒そうな気がしないでもないが、考えてみたらメイドが超高級な美術品を持ち出さないように家令が見張る必要はどちらにせよあるのかも?
「ああ、その方が無難だろう。
よし、まずは不審者が後ろからナイフを突きつけている状況を試してみよう!
誰か不審者役をやってくれないかね?」
チェルナ子爵が周囲をわくわくした顔で見回す。
「私がやりましょう」
剣を身に付けた警備担当らしき男が手を挙げた。
剣を持っていてあの捕縛結界に捕らわれたらどうなるのか、丁度いい実験になりそうだな。
「よし!じゃあ私が外にでるから、シャルロたちの内の一人も一緒に外に出て、残りは中から見ていてくれ」
踊るような足取りで子爵が出て行った。
「じゃあ、僕は廊下から見てるね」
「では、私はあの風除室の端に立っていて、そこでも捕縛されるかを確認してみよう」
シャルロとアレクが立ち上がりながら言った。
あ~。
確かに、あの風除室はそれなりに大きかったからな。
藁の量が少なめだったらどうなるかも気になるし、端に誰か立たせて実験するのは重要だな。
「じゃあ、俺はこちらで待っていて、警報が鳴ったら扉を開けてみるよ」
考えてみたら、警報が鳴ってすぐに内側から扉を開けたら捕縛結界の起動が出来なくなるな。
内側からは取っ手が下にしか回らないようにしておけばいいかな?
風除室でついうっかり話に熱中しすぎたというのでない限り、あそこで立ち止まる理由なんてほぼない筈だから、誰も入ってこないとしたら捕縛されているか、捕縛する方法を登録された人間が必死になって思い出そうとしているといったところだろう。
そう考えたら、内側からは捕縛結界生成のトリガーを問答無用に引くようにしても良いと思われる。
という事で。ぞろぞろと人が出て行く。
家令も出て行ったが、彼もあとで誰かを捕縛する練習をするのかな?
痩せた高齢な爺さんだから、あまりぐるぐる巻きにするのは悪い気もするが。
まあ、老人をぐるぐる巻きにして何か問題が出ないかのテストになっていいかもだな。
家令だって色々と忙しいのだ。
何もしない貴族の老当主とかよりは元気だろう。
そう思っている間に、警報用の鈴が鳴ったと思ったら、扉が開いてチェルナ子爵が警備の人間と一緒に入ってきた。
「よし! 入れたな!
次は捕縛する形でやるぞ!」
嬉し気にチェルナ子爵が外に出て行く。
警備の男はちょっと微妙な表情だが、シャルロとアレクと一緒に出て行った。
バタンと扉が閉められて、更に廊下側の扉が閉める音がしたとともに防御結界が廊下側まで展開するのが視える。
待っている間に廊下側の扉が開き、チェルナ子爵が警備の男と一緒に風除室に入ってきたところで警報用のベルの音が再び鳴る。
今度はチェルナ子爵が取っ手を回したら藁が落ちるとともに捕縛結界が展開して、警備用の呼び鈴を鳴らす紐が引かれているのも視えた。
内側から扉を開けたら、藁が落ちた際に埃がまったのか、ちょっと埃っぽい部屋の中にチェルナ子爵と警備の男、及びアレクがぐるぐる巻きになって床に転がっていた。
更にこれって内側から開けた時の効果をテストするべきだよな~。
取り敢えず、皆を解放するか。
と思ったら、警備担当らしき他の男たちがわらわらと廊下から入ってきて、チェルナ子爵をまずむんずと持ち上げて廊下に持ち出して行った。
うん、いい感じかな。
むんずと担がれる貴族当主w




