1391 星暦559年 赤の月 1日 魔力認証結界(19)
幾つかあった像を動かし、それらと絵画を守る防御結界を壁沿いに設置しおわった。
という事で、次は本番の探知結界と捕縛結界と防御結界だ。
「この部屋へ入る魔力認証は誰を登録しておきますか?」
アレクがチェルナ子爵に尋ねる。
「私と妻と子供たち2人。
一応家令も入れる方が良いだろうな。
後は誰かが訪ねてきて、招き入れたければ手動で入れるのも可能なんだよね?」
子爵が聞き返す。
「ええ。
そちらの風除室のようなスペースに登録されていない人間がいる状態で廊下側の扉を閉めると、警告もかねてチャイムが鳴ります。
その際にこちらの部屋に入る扉の取っ手を上に回せば、普通にそれらの人物を含めて中に入れるようになります。
ここでうっかり取っ手を下に回すと警報が警備用の部屋に流れるのと共に、全員が捕縛結界に捕らわれることになりますのでお気を付けください」
アレクが説明する。
一応、さっきさらっと使い方に関しては説明したんだけどね。
そんでもって設置し終わったらもう一度説明した上で、説明書を渡すし、ついでに実際に失敗するのも経験してもらう予定だ。
やっぱ一度捕縛結界にぐるぐる巻きにされたら、記憶にきっちりと刻まれるだろう。
警備担当の人間もぐるぐる巻きにされた当主と客と不審者を正しい順番で確保して解放する予行演習が必要だろうし。
「ちなみに、魔力認証が無い人間は絶対に入れないのか?
こう、認証された人間が中に入った状態で火事でも起きて全員が煙に巻かれて意識不明になったりしたら救助も出来なくて危険そうだが」
チェルナ子爵が尋ねた。
確かに?
入った人間が睡眠効果のある香を焚くとか、全員をぶん殴って意識不明にさせるとかって状況は考えたが、火事って言うのは想定していなかったな。
「外に出る分には問題ないから、煙が出てきた段階で外に逃げるか、窓を割って鉄格子も何とかぶち破って逃げるとか?
一応防御結界があるから炎は広まりにくいけど、煙で呼吸が出来なければ死んじゃうし、結界が熱に負けて破れちゃった時点では救助に駆け込むのも難しいかも」
シャルロが眉を顰めて言った。
「一番警備の目に入りやすい場所にある鉄格子を、内側からなら開けられる構造にしてそこから逃げられるように縄梯子でも準備しておいてそこから逃げられるようにしたら良いかもですね。
ただ、中の人間が火事に気付く前に意識不明になったらどうしようもないから、空気清浄用の魔具も設置した方が良いかも知れない?」
結界自体を只管攻撃しまくれば外からでも結界を魔力切れにして破れるが、それに掛かる時間はかなり長くなりかねない。
そう考えると、外から結界を破る方法を準備しておくよりは、中の人間が意識不明にならないようにする方が良いだろうな。
まあ、中に招かれた人間がチェルナ子爵家の人間を縛り上げて欲しい物を盗んだ上で屋敷に火をつけた場合はどうしようもないが。
というか、基本的に家人を縛り付けた上で火をつけるというのは殺意がしっかりある凶行なので、その時点で既に諦めなきゃダメだろ。
殺す気があるなら、首の骨を折るなり毒付きのナイフで切り付けておくなり、殺すのは簡単なのだ。
そんなヤバい人間を招き入れてしまった時点で、人を見る目が無かった自分を責めるしかない。
ヤバいかな?と思ったらその部屋に入る前に捕縛結界を『うっかり』作動させてしまい、警備担当の人間に客人を解放するついでに持ち物を確認させればいいのだ。
「ふむ。
空気清浄が出来る魔具があるのならそれは良いね。
窓を開けて空気の入れ替えが出来ないから、時折空気が籠る感じになる時があったのだよ」
チェルナ子爵が嬉しそうに言った。
俺たちが以前売り出した、換気・空気清浄用の魔具はあまり知られていないのかな?
考えてみたら舞踏会なんかでも色んな人間の香水とか体臭とかが混じってかなり強烈な臭いになることもあるから、貴族相手に売り込んでみたらどうかと今度アレクからシェフィート商会に言って貰おうかな?
まあ、とは言え、美術品を飾っているこの部屋ならまだしも、大人数が集まる舞踏会で効果を実感できるほどの機能だったかは微妙に不明だから、売り込む前に実証実験してみた方が良いだろうが。
さて。
取り敢えずまずはさっさとこの試作品を設置してしまおう。
誰も入れない部屋でうたた寝しちゃった間に失火が屋敷の他の部分で起きるのも危険ですよね




