1390 星暦559年 赤の月 1日 魔力認証結界(18)
取り敢えず、犬や馬が美女なのか??と疑問に思いつつ、絵そのものは中々躍動感があっていい物に思えたので、何も言わないでおく。
俺は人の趣味にケチを付けられるほど、美術に関して詳しい訳じゃあないしな。
美術なんて自己満足の世界だろう。
写実的に家族の肖像画を描かせて皆の記録を取るとでもいうのでない限り、見て部屋の印象が良くなるな~とか気分が上向くな~とか思える物だったらいい筈だ。
高く売れるとか、他者から羨ましがられるとか言った付随的な価値や問題は……人間の自己満足の世界だ。
まあ、それを言うなら宝石だってキラキラ光るだけの石ってところだけどな。
換金価値が美術品よりははっきりしているが、それだって加工や流行に左右される。
一番しっかりした資産は金だろう。
あとは、実用的な魔具。
美味しい食事なんかも価値はあると思うが、こっちは長持ちしないからなぁ。
まあ、それはさておき。
「ふむ。
これだけあるなら、壁際1ハドには誰も触れられない防御結界を設置する形にしておくので良いですか?
暖房用魔具の後ろにでも防御結界の魔具をしれっと置いておけば見つけて対処するのに時間が稼げるでしょうから、盗まれる前に警備の人間が辿り着ける可能性が高まると思いますよ」
アレクが部屋を見回して言った。
「部屋の中に置いてある像とかはどうします?
個別に設置するとその分の魔具が必要になるし、目立つから対処に掛かる時間が短くなるかも?
壁際に絵と一緒に置いておく方が一緒に守れていいと思うけど」
シャルロがチェルナ子爵に尋ねた。
像はなぁ。
絵画と違って触っても汚れない(というか汚れるけど磨ける)から、物よっては頬ずりしたがる持ち主なんてのも居るんだよなぁ。
盗賊時代にお邪魔していた貴族の家で、当主が裸婦の像を愛情たっぷりに撫でまわしてキスまでしていたのは中々気持ち悪い光景だった。
「う~ん、像は一面的な姿だけじゃなくて色々な角度から見て愛でるのがいいんだよなぁ。
壁際に置くだけじゃあちょっとそこら辺の楽しみが減りそうだ。
ただまあ、部屋の真ん中に置いてあると遊びに来た子供がぶつかって倒しそうになることもあるからね!
この際、壁の方に動かして、触れないようにした方が良いかな?
そうなると防御結界も1ハドじゃなくて2ハドぐらいにして欲しいな」
チェルナ子爵が唸りながら考え込んでから、応じた。
「え、僕はぶつかりそうになっただけで、ぶつかってないよ!!!」
シャルロがちょっと赤面しながら抗議の声を上げた。
おいおい。
素人の目から見ても高級そうな美術品がある部屋で走り回ったのか、シャルロよ。
ぶつかったら押し倒せそうな像の置き方をするのも問題だと思うが、そこに子供を入れるのも凄いな。
美術愛が強いが、それを子供とかにも見せて愛を皆で分け合いたいってやつなのかな?
早くからいい作品に触れあう機会があると審美眼が育つかもしれないからな。
うっかり遊んでいて壊したりしたら一生忘れないトラウマになりそうだが。
「じゃあ、像を浮かせたうえで台を動かしますから、像の確保と場所の指示をお願いします」
シャルロが浮遊の術を近くにあった像に掛けてチェルナ子爵に頼む。
俺はさっと台を持ち上げて子爵の方を見た。
さっさと動かないと、ヤバい美術品を動かす役目を押し付けられるのは遠慮したい。
「ほ~。
こうやれば美術品なんかも簡単に動かせるんだね。
大きな花瓶なんかも時折動かすのに使用人が苦労しているみたいだから、こういう浮かべる術を掛ける魔具って作って貰えないかな?」
軽くなった馬に乗った男性の像を手に取って動かしながらチェルナ子爵が聞いてきた。
あ~。
絨毯掃除用の清掃用魔具で出来そうだよな。
掃除用だと言わない方が良い気もするが。
「明日にでも、使えそうなのを持って来ますね」
シャルロがあっさり頷いた。
考えてみたら、ああいう魔具と浮遊型台車があったら重い家具や美術品でも盗み出すのが簡単にならないか?
まあ、浮遊型台車は密輸用の拠点とかで既に大活躍なようだから、今更悪用に関して問題視してもしょうがないんだが。
便利な魔具を作ると色々と悪用する連中が出てくるのは、悩ましい……。
普通のお屋敷の使用人より犯罪者の方が便利な新しい道具に詳しい現実w




