1386 星暦559年 藤の月 28日 魔力認証結界(14)
警備兵が使う捕縛用の魔具はぐるぐる巻きにする素材を前もって準備しておかないと、魔力消費が大幅に増える上に短時間で消えてしまう。
短時間だったら魔力そのものが体をぐるぐる巻きにして捕縛するんだけど、ある意味心眼がしっかり出来ている人間じゃないとどの程度捕縛者が動けないのか、捕縛されている時間があとどのくらい残っているのかなんかが分からなくて、下手をしたら逃げられてしまいかねない。
非常時の一瞬の拘束用で、魔力だけの使用はほぼ想定されていない。
「確か、実際に警備兵が使っている捕縛用の素材はなんか特別な素材を使っているって話だったと思う。だが今回は取り敢えず動けなきゃいいんだから、嵩張るけど纏まりやすい藁でも仕込んでみて、どの程度拘束力が続くかまずは試してみようか」
藁だったら馬の餌とか厩の床に敷く用に金持ちだったら誰でも屋敷にあるだろう。
庭の手入れとかでも藁って冬になる前(?)に使うらしいし。
「そうだな。
まずは捕縛用結界を先に試してみるか」
アレクが頷き、藁を取りに工房から出て行った。
考えてみたら、俺が今工房の外に出たら、誰かに引き連れて貰わないと戻れないな。
夕方までに登録しなおしておかないと、何かがあった時に魔術結界を壊さなきゃ工房に入れないというのは困る。
「じゃあ、待っている間に捕縛結界用の魔術回路を作っておこうか。
藁はどこに置いておけばいいのかな?」
シャルロが首を傾げた。
「廊下側の入り口の上の方にでも簡単な吊り棚でも作って、呼び鈴を引かれた時についでにその吊り棚も引かれてひっくり返るようにしたらいいんじゃないか?」
あまり複雑にし過ぎない方が良いだろう。
という事で、シャルロにぐるぐる巻きタイプの捕縛結界の魔術回路作成を任せ、俺は工房の扉の上にちょっとした吊り棚を作る事になった。
吊り棚と言うか、壁側をワイヤーで吊るし、部屋側を下から棒で支えるタイプにした。この支える棒を呼び鈴のワイヤーと一緒に引けばつっかいが外れるようにすれば、棚に載せてある藁がばさっと落ちてくる、筈。
部屋の中に入った人が興奮して手を振り回していたら上から藁を被る羽目になりかねないから、ちょっと高めに設置した方が良いかもだな。
でも、あまり高いところにあると起動した後にまた藁を戻して棒でつっかえるのも面倒そうだ。
そんなことを考えながら、棚の設置を終わらせたところでアレクが戻ってきた。
「あ、こっちにくれ」
適当に紐で纏められた藁を受け取り、棚の上に置く。
紐は……ちょっと弱めておいて、棚を吊るすワイヤーに繋げておけば吊り棚がひっくり返った際に藁の重さで切れるだろう。
多分。
一応、藁が纏まったまま落ちても捕縛結界を形成するのに足りると思うが。
流石にまとめておかないと扉を開閉した時の空気の流れでぽろぽろ藁が落ちてきそうだからなぁ。
何だったら浅い箱にでも藁を纏めて入れて、箱ごと落ちるようにした方が良いか?
そんなことを考えながら、シャルロが作り上げた捕縛結界の試作品を『引く』動きの魔術回路とつなぎ合わせて工房の入り口の脇に設置した。
「さて。
起動させてみようか」
魔力を流してまずは捕縛結界を動かす。
探知結界との連携に関しては次に実験する。
一つずつ試していく方が、上手くいかない時に何が原因なのかが分かりやすくて良いからね。
そんなことを考えている間に呼び鈴が鳴り、上の吊り棚がひっくり返って……俺の頭に当たり、藁が工房の中に舞ったと思ったら次の瞬間に俺が藁が固まってできた縄みたいなものでぐるぐる巻きにされていた。
「おお~。
まあまあ上手くいったかな。
吊り棚をもっと高く設置しないと部屋の中にいた人間の立ち位置と身長次第では頭に一撃くらっちまいそうだが」
軽い板だったのでそれ程痛くはなかったが、ぐるぐる巻きにされる上に頭をポコンなんて、悪人じゃなくてうっかりだった場合に哀しい。
「初めて使ってみたけど、こんな感じになるんだね~」
シャルロが近づいてきた、俺をぐるぐる巻きにしている藁を指で引きはがそうとした。
バラバラの藁だったのが縄みたいになって、指で引きちぎろうとしても上手くいっていない。
まあ。縄ってそもそも藁を編んだものも多いからな。
魔力で固められて縄になった藁をまずは分解するか、ナイフで切らないと。
「ちょっと足の間を開いてみるよう力を籠めるから、そこからナイフで切れないか、実験してみてくれ」
グイっと太ももに力を入れて縄のあいだに空間を作る。
頑張った成果の末に出来上がった隙間にシャルロがナイフを差し込んで縄もどきを切った。
が、藁をまとめ上げて縄にする魔力が残っているので、そのまま別の藁が引っ付いて縄になってしまった。
「うわぁ、何か藁が自発的に動いてウィルを捕縛しているみたいで不気味~」
シャルロがちょっと引きながら言った。
「捕縛結界の魔力を切ってから、もう一度ナイフで切ってみてくれ」
俺の魔力で捕縛結界を無効化するよりは、普通にスイッチを切る方が楽そうだ。
「お待たせ」
アレクが捕縛結界の魔具を切り、俺の腕に巻き付いていた藁製縄モドキを引っ張ってみた。
お。
ちゃんと藁が縄っぽくなっていたのが、緩んで抜けている。
「ふん!」
力を込めて体をねじる。
良い感じに縄が緩んで、抜け出せた。
「これって一人ずつ捕縛結界を切るって訳にいかないから、結局当主さんが巻き込まれた時に当主ごと捕縛していて、当主を解放する際に他の人に逃げられるリスクは変わらなくない?」
シャルロが指摘した。
「そうだな。世の中、中々難しいもんだよなぁ」
結局、当主は拘束されるのは既定路線w




